1 生成文法家の日常
この tweet からも分かるように、生成文法家の日常は、
① 英語の論文(又は専門書)を読みまくる。
② 自分も英語で論文(もしくはレポート)を書く。
に集約できます。
もちろん研究対象の言語によって僕みたいに全て英語で通せる人とそうでない人に分かれて来るとは思います。例えば、中国語を生成文法的に分析している人ならば、必ず中国語の文献(文法書)等を参照する必要性が出てきます。
ただし、Chomsky の文献を始め、生成文法の基本文献は全て英語で書かれているため、どうしても英語の比重が大きくなってきます(要するに英語を避けては通れなくなる)。
例えば、僕は今英語の関係代名詞についての論文を執筆中です。出来上がった論文はしかるべき場所に提出するつもりなのでこのサイトでは公開できません。しかし、僕がやってきた研究のプロセスを簡潔にまとめることはできます。
2 具体的な研究の流れ
1)先行詞繰り上げ ( antecedent raising ) は存在するのか?
僕が初めにこの疑問に行きついたのは Andrew Radford (2016) の分析に違和感を覚えた時のことです。
英語の関係代名詞構造は、wh-movement (wh-移動)によって作り出されているというのがそれまでの通説でした。
- The book [ which he wrote ] sells well.
例文1番を作るためには wh-句を wrote の後ろから説の頭まで移動させる必要性がありました。
頭があ類人はよく「なぜ移動させる必要があるのか」と問うてきますが、そこを説明しだすと面倒なので今は完結に触れておきます。
普通 write の目的語(書かれた物)は write の後ろにきます。
2. He wrote the book.
なのに関係代名詞句とwh-疑問文では節の頭(文頭)にきます。
3. What did he write?
ゆえに、wh-疑問文の時も、関係代名詞の時も、普通の肯定文の時も write の目的語は動詞 write の後ろに生じていたと考えるのことができます。
もっと深掘りして考えることもできるのですが、今はそれが主題ではないのでここで切り上げます。
さて、wh-移動によって関係代名詞が生じているとすると、いくつか都合の悪い文に出くわします。
その代表例が先行詞に再帰代名詞を含んだ文です。
そもそも、再帰代名詞は指示対象の後ろに生じていなければならないようです。
4. John praised himself.
「ジョンは彼自身(=ジョン)を褒めた」
そのことを念頭に入れて、次の文を考察してみましょう。
5. The picture of himself [ which John has painted] was hanging on the wall.
この文では himself =John 読みが成立します。