1,複数形のsではありません。
僕も中学時代にこの単語を習った時、all +way+複数形の語尾sだと思っていた。全ての方法で⇒いつも、という意味だと思っていた(ここは正しい)。
英語はインドヨーロッパ祖語と呼ばれる古代の言語からできたと言われている。
インドヨーロッパ祖語(印欧祖語)は、文字記録が残っていないため詳しいことは分からないが、紀元前4500年以前に黒海北岸~カスピ海沿岸あたりで話されていたと考えられる古代の言語である。
この言語の話者が車輪の発明以来四方八方に民族移動(民族離散?)していき、行きついた先で方言差を発達させる形で様々な語派を形成した。
例えば、インド・イラン語派は、古代インドで経典ヴェーダを記すのに使われたサンスクリット語や、古代イラン語を指す。
ヘレニック語派は、古典ギリシア語やそれに近い言語を指す。
イタリック語派は、ラテン語やその子孫である現代イタリア語、フランス語、スペイン語等を指す。
ゲルマン語派とは、ドイツ語や英語のことである。
このような、印欧祖語から生まれた言語たちを印欧語族と呼ぶ。印欧語族の言語同士を比べることで、文字記録の残っていない印欧祖語について、ある程度のことが分かってきている。
インドヨーロッパ祖語は非常に豊かな格変化を持っていたらしい。格(case)とは、I, my, meや、Tom, Tom’s等の変化のことである。この変化により、名詞や代名詞の文中での意味や役割がかなり分かる。
例えば、meなら目的語、Iなら主語だと判断できる、といった具合だ。
インドヨーロッパ祖語は、このような格変化を英語よりずっと豊富に持ち合わせていた。
格の名称 | 主な機能 | 大体の意味 |
主格 | 主語 | ~は、~が |
属格 | 所有格とほぼ同じ | ~の |
与格 | 間接目的語 | ~に |
対格 | 直接目的語 | ~を |
奪格 | from~とほぼ同じ | ~から |
具格 | 手段、方法、(with~とほぼ同じ) | ~で |
位格 | 位置を示す (at~, in~とほぼ同) | ~で |
呼格 | 呼びかけ | ~よ |
現代英語なら前置詞等を用いて表す意味も、印欧祖語は格の変化によって表していたのである。
実際に、印欧祖語の単語(nokwts「夜(night, nocturnの語源)」の格変化表を下に載せてみた。
比較対象として、現代英語の格変化表も載せる。
現代英語 | 単数 | 複数 |
通格(主格兼目的格) | king | kings |
所有格 | king’s | kings’ |
印欧祖語 | 単数 | 双数 | 複数 |
主格 | nokwts | nokwte | nokwtes |
属格 | nekwts | ? | nekwtoeom |
与格 | nekwtey | ? | nekwtmos |
対格 | nokwtm | nokwte | nokwts |
奪格 | nekwts | ? | nekwtmos |
具格 | nekwte | ? | nekwtbhi |
位格 | nekwti | ? | nekwtsu |
呼格 | nokwt | nokwte | nokwtes |
現代英語ではかなり格変化が簡略化されている。しかし、印欧祖語は上の表のような豊かな格変化を持ち合わせており、それを使ってある名詞の文中での意味や役割を表していたのだ。
印欧祖語がこうした格変化によってさまざまな意味を表している一方で、このような格変化を失った現代英語は、前置詞を多用することで同様の意味を表現している。
その証拠に、印欧祖語には前置詞がなかったのではないかと言われている。あったとしても、使用場面がかなり制限されていた。
2,副詞的属格
印欧祖語のように格変化を豊富に持っている言語では、格変化させた名詞を(前置詞なしで)単独で用いて、副詞として使うことができた。
印欧祖語の名詞は上の表のように8つの格変化を持っていた。その中で、属格という格はほぼ現代英語の所有格に相当する役割を持っていた。
king単独では「王」という意味だが、所有格king’sにすると「王の」という意味に変わる。
印欧祖語の名詞における属格もこれと同じ機能を持っていた。
ただし、属格にはそれ以外の機能もあった。
単独で用いて副詞として機能するという用法もあった。
もっとも、こうした用法は主格と呼格以外の全ての格にあったので、属格だけの特別な用法ではない。
属格の副詞としての意味は「~に関して」が一般的である。
この副詞として使われる属格の用法は、印欧祖語の子孫である印欧語族の言語にも残っている。
ラテン語でも、Misereor matris. 「私は母に関して憐れむ⇒母を憐れむ」のように、属格matris「母の」を単独で用いて、「母に関して」という副詞で使う表現がある。
印欧祖語の子孫にゲルマン祖語があった。これの子孫がドイツ語や古英語等であるが、古英語期(6~11世紀)には、こうした副詞的属格が頻繁に用いられた。
alwaysは元々、all +wayの属格であった。意味は「全ての道に関して」だった。
そこから「全ての工程を通して」⇒「いつも」という意味になったとされている。
ということは、alwaysのsは、現代英語の所有格に使われる’sとルーツの面では同じである。
このような副詞的属格の他の例を挙げていこう。
once, twice, 等の最後の-ceの部分は、古英語期は属格(所有格)の語尾だった。
元々の意味は、「一回に関して」「二回に関して」といった物であった。
また、towordsも、wards「方向」の部分が副詞的属格だった。forwardsなども同様である。
days and nights「昼も夜も」という表現も、元をたどれば副詞的属格である。
daysのs、nightsのsはどちらも複数形の語尾sではなく、属格(所有格)の語尾であった。
daysの意味は「昼に関して」⇒「日中」
nightsの意味は「夜に関して」⇒「夜間」であった。
参考文献andさらなる読書案内)
Brinton, L. J and Arnovick L. K. (2017) The English Language – A linguistic History, Oxford; Oxford University Press.
唐澤一友(2011)『英語のルーツ』春風社