1 多読1000万語するとどうなる?
結論から言えば、多読を1000万語すると『ハリーポッター』等の簡単な洋書が読めるようになります。『ハリーポッター』シリーズは洋書の中でも簡単な部類なので、英語が得意な人からすれば大したことが内容に思えるかもしれません。しかし、僕の場合はここまで来るのに相当大変な思いをしました。何せ僕は英語が苦手でしたから。
1 英語難民、あがく
1.1 僕は英語難民だった
巷では、英語がどうしようもなく苦手な人を「英語難民」と呼ぶらしいです。だとすれば、かつての僕は完全にこの英語難民の一人でした。
昔から長文が特に苦手で、読んでも意味が分からないし、制限時間内に読み終えたことも皆無でした。当然模試の結果は振るわず、高3で受けた模試ではで英語の偏差値が45でした。案の定センター試験でも英語長文を時間内に読み終えることができず、結果として150点くらいしか取れませんでした。
そんな僕でも全科目を満遍なく勉強することで京都大学総合人間学部(文系)に合格することができました。
1.2 本当にしんどかったのはここから
大学1回生時は英語に関して求められることは本当に少なかったと記憶しています。大学に入ったら西洋史をやると決めていたので、英語を全く勉強せずに西洋史ばかり勉強しました。それでも通用してしまったのです。
しかし、2回生になると西洋史の演習でも英語が要求されるようになってきました。僕はイギリス史の演習に出席しており、その内容は英語の歴史資料を読むというものでした。英語が全く読めない僕はここで躓いてしまいました。課題として出される英文の歴史資料に歯が立たなかったのです。
半年の演習を何とか終えることはできたのですが、自分がいかに英語が読めないのかをここで嫌と言うほど分からされてしまいました。
1.3 迷走
英語が読めない原因は文法と語法(単語の使い方)の知識不足にあると考えた当時の僕は、柏野健次の『英語語法レファレンス』や小西友七の『現代英語語法辞典』等の日本語で書かれた文法・語法に関する本を買い集め、勉強を始めました。
1年近くこうした英文法の勉強を続けましたが、結局英語を読む力はつきませんでした。どうしても英語が読めるようになりたいという思いから英文学の演習を履修したのですが、全く英文が読めなかったのです。
本格的な英語の小説を週に2章づつ読んでいくのですが、全くついていけませんでした。一文の中に分からない単語が2つも3つも出てくるような文章を週に数十ページも読み進めるのですが、そんなことできるわけがありません。
ここで僕は一種のノイローゼみたいなものを発症してしまい、英語の勉強が半年ほどできなくなってしまいました。
その後も何とかして英語を読めるようになりたい、何とかして洋書を読めるようになりたいという思いでひたすらあがき続けました。
いろいろな勉強法に手を出しては最後まで続けることができず、途中でやめてしまいました。主に心理的な負荷が大きすぎて続かなかったというケースが多かったですね。
とにかくあがいてあがいてあがき続けました。
2 あがいた先にあったもの
僕があがき始めたのは2014年の後半で、今この記事を執筆しているのが2022年の9月です。かれこれ8年近くあがき続けていることになります。今僕は Cambridge History of the English Language Volume II という本を読んでいます。中英語と呼ばれる1100年くらいから1500年くらいに話されていた英語に関する専門書ですが、僕の感想は「簡単」です。
普段は Noam Chomsky の The Minimalist Program や Ian Roberts の The Final Over Final Condition 等を読んでいるせいか、並レベルの専門書に特に苦労することは無くなりました。
ここに至るまでかれこれ5000万語以上は多読をしています。これだけ多読をしてしまうと、英語を読む力が半ば強制的に上がります。今は認知言語学を独学で身につけるという取り組みも実行中で、Talmy 等の本を原書で読んでいます。
様々な勉強法を試して、実に多くの失敗をしてきました。こうした数々の失敗のおかげで自分なら続けられる勉強法とそうでない物の区別もつけられるようになってきました。
もちろん今でも沢山勉強法で失敗を重ねていますが、ある意味一つ一つの失敗を経験値だと思って割り切っています。
今の僕の実力の紹介はこの辺にして、多読1000万語をした時のことを語りましょう。
3 多読1000万語への道
3.1 実力が一番伸びる時
既に述べた通り、僕は多読を5000万語以上してきています。当然0から多読を始めているので、0⇒1000万語、1000万語⇒2000万語、等の各通過点を振り返ってどこで一番力が伸びたのかを考察することができます。
もちろんどの段階でも大きく力は伸びました。中には、4500万語くらいという中途半端な数字で実力が「爆伸び」したケースもあります。しかし、やはり最も実力の伸びが大きかったのがが0⇒1000万語の時だと思います。
0⇒1000万語まで多読を積んだ時に簡単な洋書がまともに読めるようになりました。それ以前とは雲泥の差です。以下、多読を始めるに至った経緯から語りましょう。
3.2 復帰戦として英検1級を受ける
さて、英文学の演習で僕が精神的にぼろぼろになったところまでを述べました。やはり一文に3つも4つも分からない単語が出てくるような小説を一週間に40ページくらい読んで、2週に1回発表を行うというスケジュールは相当無理があったらしく、僕はメンタルをやられてしまいました。その証拠に、僕はその後半年ほど英語をろくに勉強できなくなってしまいました。
時間的な余裕はあったのですが、英文を見るたびにしんどくなるという症状が続きました。実力不足で本格的な洋書を読んだことによるダメージはそれほど大きかったのです。
今思えば、英文法ばかり勉強してしまった1年間よりも、この半年の空白の方がダよっぽど大きな損失です。どちらも英語を読む力を上げられなかった時期という点では同じなのですが、病んでいた半年間は本当に何もできなくなってしまったのですから。この状態から抜け出すのにも一苦労しました。
抜け出せたきっかけは色々ありましたが、やはり「英語を読みたい」「洋書を読めるようになりたい」という自分の内なる思いが大きかったのだと思います。
どれだけ病んでいようが洋書は簡単にはなってくれないし、単語が勝手に覚えられるはずもありません。なので、茨の道になることは覚悟のうえで、僕はもう一度英語を頑張る決意をしました。
今回ラッキーだったのは、自分に何が足りていないのかが明白だった点です。一文に3つも4つも分からない単語が出てくるというのは明らかな語彙不足です。それが分からないほど僕は馬鹿ではありませんでした。
当時の僕の語彙力がどのくらいだったのかというと、おそらく英検2級程度だったと思われます。高校時代に英検2級は取っていたのですが、それ以来語彙力を伸ばす努力を怠ってきました。ゆえに当時の僕の語彙力は高校時代とほぼ変わらなかったはずです。
それに対し、(子供向けではない)英語の小説や英字新聞、さらには専門書などは英検1級かそれより上のレベルの単語をバンバン使ってきます。ということは、英検1級レベルの語彙力がないともはや話にならないのです。
ということで、早速英検1級レベルの語彙を習得することに決めました。やることがはっきりしてからは速かったですね。
英検1級レベルの単語をやる前段階として、植田一三の『英検準1級英単語大特訓』という本で準1級レベルの単語を覚えました。準1級レベルの単語を意識的に覚えようとしたのはその時が初めてだったのですが、洋書に普通に出てくる単語が多く、既に意味を知っているものが大半でした。なので準1級レベルの英単語の勉強は2週間くらいで終わりました。
その後、同じ著者の『英検1級英単語大特訓』をやりこみました。さすがに1級レベルの単語は難しいものが多く、とっつきにくかったのですが、1か月半くらいで大半を頭に入れました。
英検1級レベルの単語をおさえると英文を読むのがかなり楽になりました。ただし、洋書を読むとまだまだ分からない単語に出くわしますし、そもそも英文を読むのが遅すぎて話になりません。
3.3 多読との出会い
英検1級を取ってからも色々な勉強法を試し続けました。その中で見つけたのが多読という勉強法です。
実を言えば、日々の勉強の休憩として簡単な英語で書かれた作品を読んでいたのが事の始まりです。つまり、多読は勉強として始めたものではなかったのです。
多読する際に役立ったのが大学の図書館です。多読を始めてから1年くらいは retold 版と呼ばれるレベル付きの洋書を主に読んでいたのですが、大学の図書館にはこうした書籍が豊富に揃えられていました。Oxford Bookworm series や Penguin Reader や Macmillan readers 等が計300冊くらい置いてありました。
こうしたレベル付きの洋書の多くは、『オズの魔法使い』等の名作を簡単な英語で書き換えることで出来上がっています。元となった作品の話自体が面白いので、簡単な英語で書き改めた物も話の筋は面白いのです。
こうした作品を10冊くらい読むと、自分の英文読解能力が上っていることに気が付きました。英文を読む速度が明確に上がっているのです。どうやら多読という学習法は正解だったようです。
それが分かった後は、多読をやりまくりました。確かにしんどくなる日もありましたが、本の内容が面白かったおかげで、多くの本を最後まで読み進めることができました。
来る日も来る日もこうしたレベル付きの洋書を読み続け、気づけば1年以上が経過していました。そのころになると、大学の図書館に置いてあるものをほぼ全て読み切っていました。全部で300冊くらい読んだと思います。
図書館にあるレベル付きの教材を読み切ってしまった以上、レベルのついていない本格的な洋書を読まねばなりません。かつてこれに挑戦して精神を病むレベルのトラウマを植え付けられている以上、最初はかなり躊躇しました。でも、やりました。
最初に読んだレベルのついていない洋書は『ナルニア国物語』というシリーズでした。これも図書館にあったものです。確かにところどころ難しい個所はありましたが、全体として意味を把握することはできました。どうやら自分の能力が向上していたみたいです。
次に読み始めたのが『ハリーポッター』シリーズです。『ナルニア国物語』より難易度が高めで多少苦労することもありましたが、やはり全体として意味を取ることはできました。そもそもこのシリーズ自体が総単語数100万語くらいと長いので、読んでいる途中で実力が大きく伸びる時期を経験できました。
それまでに読んだ合計の単語数は、記録をとっていないので正確には分かりません。しかし、『ハリーポッター』を読んでいる途中で累計1000万語くらいは読んでいたと思います。
3.4 多読1000万語を振り返って
多読を始めたころの僕の実力は英検1級にやっと受かるレベルでした。そのころは(レベルのついていない)洋書を読むなんてことは逆立ちしても不可能なことでした。しかし、そこから1000万語くらい多読すると本格的な洋書が読めるようになってきたのです。
多読の効果は人それぞれだと思います。多読の成果は、始めた時の英語力や、本人の資質・能力(IQのこと)に大きな影響を受けます。よって、多読の効果を一般化することは難しいです。
多読をすれば全員に効果が出るとも言えませんし、どれだけ読めば洋書が読めるようになるのかも完全に人によります。
ただし、僕自身の経験から言えることは、英文法をきちんと習得しており、なおかつ英検1級レベルの単語をおさえている人なら、1000万語くらい読むと多読の大きな効果を実感できそうだということです。
4 まとめ
高校時代の英語の偏差値が45だった僕は、大学入学後洋書が読めず、授業で挫折してしまう。
その後単語を覚えまくって英検1級に合格するも、洋書にはまだ手が届かない。
何気なく始めた多読に活路を見出し、図書館にあるレベル付きの洋書を読みつくした。すると、『ハリーポッター』等の本格的な洋書が読めるようになっていた。
つまり、普通の洋書を辞書なしで読めるようになりたいのなら、せめて1000万語くらいは多読をしておく必要がある。ちなみに僕は5000万語以上多読しており、今も多読記録更新中である。
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