生成文法、最初の一冊

どうも、ヒロアキです。生成文法で修士論文を執筆しています。

さて、こんな僕に、「生成文法をやりたいのだが、最初の一冊は何が良いか」という質問が寄せられるようになりました。

そこで今回は、生成文法をやるうえで、初心者におすすめできる本をいくつか紹介します。

昔の理論から順を追ってやりたい人向け

おすすめ1位:Andrew Radford (1988) Transformational grammar: A first course. Cambridge: Cambridge University Press.

コメント:1980年代の生成文法黄金期の理論から順を追ってやって行きたいという人におすすめ。

おすすめ理由:ありとあらゆる類書と比べて、解説が圧倒的に分かりやすく、詳しい。僕はこの本を読んで生成文法をやろうと決心した。

良くないところ:他の類書と比べて長い。これは否めない。しかし、ページのサイズが小さめなので、1ページ当たりの単語数は意外と少ない。

英語自体も、他の類書と比べてシンプルなので、サクサク読める(はず・・・)。少なくとも、僕はサクサク読めた。

おすすめ2位:Andrew Radford (1981) Transformational syntax: A student’s guide to Chomsky’s extended standard theory. Cambridge: Cambridge University Press.

コメント:おすすめ1位の物よりもっと古い生成文法の教科書。古い分、当然扱っている理論も簡単である。

おすすめ理由:Andrew Radford 著だから。彼が書いた教科書は良著が多いです。また、扱っている理論自体が初期のもので、(最近の物と比べると)かなり単純で分かりやすいです。

僕は、この本を契機に統語論の洋書を読むようになった。つまり、日本語の文献に比べ、よほど分かりやすくて読みやすかったということ。

また、本自体が短い点も Good。やはり、英語多読になれていないころから、500~600ページもの、英語の教科書を読み進めるのは大変。その一方で、本書は200ページくらいしかない。初心者にぴったりである。

最近の理論からやりたい人向け

おすすめ1位:Andrew Radford (2016) Analyzing English sentences. 2nd edition. Cambridge: Cambridge University Press.

コメント:現在(2023年4月)、一番新しい Radford の教科書。(厳密には、この簡約版っぽいものが2020年くらいに出ている)Chomsky (2008) “On Phases” くらいまでの理論を分かりやすく、詳しく解説した秀作。

おすすめ理由:やはり類書の中でも群を抜いて分かりやすい。しかも、相当詳細な方である。二重否定や V-movement のセクションは一読に値する。

良くないところ:生成文法の理論の多くを省略してしまっている。特に、Agreement (一致)をほとんど扱っていない。

この教科書は普通の教室授業で使うために書かれているので、おそらく Agreementは難しすぎると判断してわざと扱わなかったのかもしれない。

おすすめ2位:Andrew Radford (2009) Analyzing English sentences. Cambridge: Cambridge University Press.

コメント:おすすめ1位の本の first edition 版である。しかし、両者の内容は、かなり異なる。前半はどちらも似たような内容なのだが、後半は、このおすすめ2位の方が、より専門的である。

より厳密に生成文法をやりたい人は、このおすすめ2位の本をやった方いいと思う。

おすすめ理由:おすすめ1位の本より専門的に生成文法を学べる点。例えば、Agreement (一致)等がしっかり解説されている。

生成文法的な一致の考え方を知らない人にとっては、この部分だけでも読む価値はあるだろう。

良くない点:やはり難しい。おすすめ1位の本より厳密さが高いため、どうしても難しくなってしまう。

おそらく、著者の Andrew Radford 氏は、教室授業でこの教材について来れない学生が大量に出たため、2nd edition では、生成文法的な厳密さを落として、初学者向きにしたのかもしれない。

質問:和書はないのか?

ここまで、Andrew Radford の手による英語で書かれた教科書ばかり紹介してきました。

さて、和書で何かいいものはないのでしょうか。

結論:多分ある。

僕はもう漫画以外で和書を読むことは、ほとんどなくなりました。

日々生成文法や言語学の勉強を怠らないようにはしているのですが(当たり前か・・・)、今のところ、全て英語の文献を使っています。

日本語統語論も視野に入れて勉強しているため、近い将来、和書を使う日がやってくるでしょう。

しかし、今僕は生成文法の理論全般をやっています。個別の言語の研究には進めていません。

その段階では、英語の文献だけでも大丈夫ではないか、というのが僕の正直な感想です。

もっと言えば、忙しくて日本語文献を探しに行く暇がなかなかないのです。

しかし、日本語で書かれて生成文法の教科書をいくつかチェックしたことはあります。

その中で「これはなかなか良質だ」と思えた物を紹介しておきましょう。

岩波講座 言語の科学〈6〉生成文法

注意:この本の著者の一人である田窪先生という方が京大の名誉教授だから推薦するとか、そういった裏事情は一切ありません。

そもそも、僕は田窪先生という方と直接会ったことすらありません。(Zoom 越しに声を聴いたことはある)

おすすめ理由:厳密。この一言に尽きます。僕自身も定義が良く分かっていなかった用語を、厳密に解説している点に好感が持てました。よくも悪くも硬派です。

良くない点:硬派な分、やはり「ある程度知っている人向け」になってしまいます。例えば、大学の授業で習ったことがあるとか、もしくは僕みたいにある程度基礎力がある人が復習用に日本語でさっと参照できる教材として持っておくのには良いと思います。

しかし、この本で生成文法を始めるという人は、多少しんどいのではないでしょうか。

それは何故かと言うと、この本はページ数が少ないのです。230ページくらいで生成文法の理論を説明するというのは、さすがに無茶だと思います。

例えば、おすすめランキングで既に紹介した Radford (2016) は、確か500~600ページくらいかけて生成文法の理論を説明しています。

Radford の説明が長すぎるわけではなく、この和書が短すぎるのです。

いろいろな言語学関連の本を読んできた僕の手応え的に、長い本(ページ数の多い本)ほど、説明が分かりやすい傾向にあります

それもそのはず、説明に沢山の言葉を使える以上、似た題材の場合は、分厚い本の方が内容的には理解しやすいです。

僕はこのほかにも和書の生成文法の教科書を調べてみましたが、Cambridge が出すような、600~700ページの教科書には出会えませんでした。

つまり、和書で勉強するという人は、それだけ簡略化された説明で理解しなければならない可能性が高いのです。

作成者: hiroaki

高校3年の時、模試で英語の成績が全国平均を下回っていた。そのせいか、英語の先生に「寺岡君、英語頑張っている感じなのに(笑)」と言われたこともある。 しかし、なんやかんや多読を6000万語くらい積んだら、ほとんどどんな英語文献にも対処できるようになった。(努力ってすごい) ゆえに、英語文献が読めないという人は全員努力不足ということなので、そういう人たちには、とことん冷たい。(努力を怠ると、それが正直に結果に出る) 今は、Fate Grand Order にはまってしまっていて、FGO 関連の記事が多い。