より洗練されたclause typing conditionを目指す【生成文法解説4】

より洗練されたclause typing conditionを目指す。【生成文法解説4】

1)CP hypothesisとclause typing condition

前回の記事(生成文法解説3)で、「全ての節はCPである」という説CP hypothesis(CP仮説)を検討した。この仮説によると、埋め込み節(embedded clause)と呼ばれる、I know [ that he is guilty]. 等の[    ]で囲まれた部分だけでなく、I am hungry. 等、主節(main clause)もCPであるとされる。平たく言えば、全ての文はTPではなく、主要部(head)にC/complementizer/補文標識¹を取るCPなのである。

この仮説の下支えになっているのは、clause typing condition(節のタイプ決め条件)と呼ばれる条件である。ある節が疑問なのか断定(平叙)なのかは、その節のCPのedgeできまるとされている。Edgeとは、specifier(指定部)とhead(主要部)のことである。

前回提示したclause typing conditionは大体以下のとおりである。

①埋め込み節(embedded clause)の場合

I know [ that he is guilty].

I know [ he is guilty].

I do not know [ if he is guilty].

I do not know [ whether he is guilty].

上の例の[    ]で囲まれた部分のような埋め込み節の場合、その節の主要部Cがthatや∅のような断定のCの場合、節全体が断定だと解釈される。また、その節の主要部Cがif やwhetherといった疑問のCの場合、節全体が疑問として解釈される。

②主節(main/ root clause)の場合

I am hungry.

Are you hungry?

Did you lose your key?

Should we leave?

Where has he gone?

上の例のような主節の場合、断定のC- に節が導かれていれば節全体が断定(平叙)として解釈される。一方、Are, did, should 等のTの要素がCに移動してきている場合は、その節全体が疑問として解釈される。さらに、Cの指定部(specifier of C/要するにCの手前)にwh 疑問詞があれば、その節はwh 疑問文だと解釈され、yes- no で解答できないタイプの疑問文になる。

2)clause typing conditionを掘り下げる

ここで、以下の例を検討して見たい。

I don’t know [ what ∅ he got as his birthday present].

I don’t know [ why ∅ he is so angry].

I don’t know [ where ∅ he has gone].

I don’t know [ when ∅ he arrived at the party].

これらの例の[    ]で囲まれた節は、いずれも疑問の意味を持っていると考えられる。さらに、[ where ∅ he has gone]や、[ what ∅ he got as his birthday present] はwhereやwhatといったwh-疑問詞で始まっており、さらに、yes- noでこれらの疑問に答えられないことから、[ where he has gone]や、[ what he got as his birthday present]はwh-疑問文の一種だと考えられる。

そうすると奇妙なのが、

  1. a)  Where has he gone?
  2. b)   I don’t know [ where he has gone].

上の(a)のような主節(main clause)の場合、T-has がCの位置に移動してきているが、(b)のような埋め込み節(embedded clause)の場合、hasは元のTの位置から移動しておらず、Cの場所には一見何もないように見える。もし本当にCの部分に何もなければ、clause typing conditionの観点から好ましくないので、null constituent (音声がない要素)がCの位置にあると考えることにする。

すると今度は、clause typing conditionそのものの見直しをせねばならなくなる。上の(b)の例の[    ]で囲まれた部分はC-∅を主要部としており、先ほど紹介したclause typing conditionでは、∅が主要部Cである場合、埋め込み節(embedded clause)は断定(declarative)だとされていた。

また、安易にclause typing conditionの修正を図る前に、感嘆文(exclamative)というタイプの文を紹介しておきたい。

What a nice car he has.

How interesting this book is.

このような文を感嘆文(exclamative)と呼ぶ。He has a nice car. や This book interesting. から派生した文であるとされている。これらもCPだとされており、∅という無音の要素を主要部Cとして取ると考えられている。樹形図を書くと以下の図1のようになる。

図1

また、感嘆文は、埋め込み節としても使うことができる。

You cannot imagine [ what a great time ∅ we are having].    (Radford 2016: 205)

この文の[    ]で囲まれた部分が感嘆文である。what a great time がCPの指定部として機能しており、主要部はやはり無音の∅であると考えられる。このC-∅が補部としてTP [ we are having what a great time]を取ると考えられる。樹形図を書くと以下の図2のようになる。

図2

そうするとやはり、無音の要素(null constituent)∅がCの位置に来た時、問答無用にその節を断定(declarative)だと解釈するのは間違いだと考えられる。

整理すると、無音の要素(null constituent)∅をCPの主要部Cとして取るのは以下の3通りである。

・①主節、埋め込み節を問わず断定文を導く

∅ I am hungry.

∅ I can help you.

Are you sure [ ∅ I am guilty]?

Do you think [ ∅ he is dead] ? 

  • ②埋め込み節として使われるwh 疑問文に使われる

I don’ t know [ where ∅ he has gone].

I don’t know [ why ∅ he is so angry].

  • ③主節、埋め込み節を問わず感嘆文に使われる。

What a nice car ∅ he has.

You cannot imagine [ what a great time ∅ we are having].

上の例で、太字になっている部分はCの指定部(specifier of C)である。埋め込みの疑問詞ではWhereやwhat等疑問詞がCPの指定部として使われている。感嘆文では、what a nice car等のフレーズがCPの指定部として使われている。このことから、∅がCPの主要部に来るとき、そのCPの指定部を見ることで文の種類(タイプ)が判断できるという仮説が導かれる。

つまり、CPの主要部Cとしてnull constituentが使われたとき、当該のCPに指定部が存在しなければ断定(平叙)文として解釈される。CPの指定部にwh-疑問詞が使われたとき、そのCPはwh-疑問文として解釈される。さらに、what a nice carといった感嘆文として使うフレーズがCPの指定部として使われたとき、そのCPは感嘆文として解釈される。

ということは、CPの主要部Cとして無音の要素(null constituent/ ∅)が使われたとき、その文のタイプを決めるのは、CPの主要部∅ではなく、CPの指定部である。ここから、当初のclause typing conditionの、「CPのタイプはそのCPのedgeで決まる」という文言が怪しくなってきた。 Edgeとは、指定部と主要部のことであるが、Null constituent/∅ がCPの主要部Cとして使われたとき、その文のタイプを決めているのは主要部∅ではなく、指定部であるからである。

では、CPの主要部に何かがあるとき、即ち、

I know [ that he has resigned].

I don’t know [ whether he has resigned].

I don’t know [ if he has resigned].

Should we leave?

Has he resigned?

等はどうであろうか。イタリック体の部分がCPの主要部Cであ。[ that he has resigned]や[ whether/ if he has resigned]の場合は、そもそもCPに指定部が存在しないと考えられる。よって、節のタイプを決めるのはやはりCPの主要部Cである。一方、Should we leave?等、主節の疑問文はどうだろうか。本当に指定部に何もないのだろうか。

3)疑問文の作り方

Should we leave? 等のyes-noで答えられるタイプの疑問文について考える前に、wh-疑問文について考えてみたい。When should we leave?等wh-疑問文はどうやって作られるのだろうか。この疑問文は、We should leave at 7 o’clock. のような文の、at 7 o’clockの部分を問うていると考えられる。

We should leave at 7 o’clock.

We should leave when?

下の文は、at 7 o’clockの部分を問うた問い返し疑問文として使える。ここから普通のwh-疑問文を作っていきたい。まず、動詞leave と疑問の副詞whenをくっつけて(mergeして)、VP[ leave when]を作る。このVP[ leave when]を今度はT- shouldとくっつけて、T-bar[ should leave when]を作る。このT-barを代名詞weとくっつけて、TP[ we should leave when]を作る。

ここまでは毎度お馴染みなのだが、wh-疑問文を作るためには、こうしてできたTP[ we should leave when]を疑問のC-∅とくっつける必要がある。この疑問のC-∅は、T-feature とQ-featureを持っているとされている。ざっくり説明すると、T-featureというのは、Tの性質を持つ要素を自分に向けて引っ張ってくるという性質である。そのTの着地点はおそらくCの位置だと言われている。また、Q-feature/Question-featureとは、wh-疑問詞など疑問詞の性質を持つ要素を自分に引き付けるというもので、その着地点は、おそらくCの指定部(specifier of C)の位置だと言われている。こうしたCの性質を書き表すのに、[TF, QF]という略語を使う。(下の図3を参照)こうしたT-featureとQ-featureを持つC-∅とTP[ we should leave when]をくっつける(mergeする)ことで、C-bar[ ∅ we should leave when]が得られる。

図3

このC-bar[ ∅ we should leave when]の主要部∅はT-featureを持っているので、一番近くにあるTの要素であるT-shouldを自分に引き付ける。根本的な疑問として、なぜこうした疑問文に使われるC-∅がTの要素を引き付けることができるのかと言うと、C-∅がaffix(接辞)としての性質を持っているからだと考えられている。接辞とは、過去形を作る-edなどがその代表格で、動詞などほかの要素にくっついて機能を果たす要素である。接辞は適切なhost(主人?)と共に発音されなければならないという制約を持つ。それはそのはず、過去形を作る接辞-edだけ動詞と別に発音されても意味不明であろう。過去形を作る接辞-edの場合は、英語のTは弱いと考えられているので、接辞-edがVの位置まで下りてきて発音される。一方、疑問の接辞C-∅の場合は、この接辞が強いので、Tの要素を自分の所まで引っ張り上げてくると考えられている。英語は、過去形を作る接辞-edの場合もそうであったように、接辞は動詞の後ろで発音される傾向にある。よって疑問の接辞C-∅はT-shouldを引き付けた後、shouldの後ろに引っ付くと考えられている。Should +∅と書き表せそうである。こうしてC-bar[ should +∅ we should leave when]が得られた。(図3を参照)

こうしてできたC-bar[ should +∅ we should leave when]であるが、まだ何か足りない。C-∅がT-featureだけでなくQ-featureも持っているので、疑問詞を引き付けなければならない。Cの主要部Cの位置がshould +∅で占められているので、疑問詞の着地点はもうCPの指定部(specifier of C)しかない。よって、CPの指定部にwhenを引き付けてきて、CP[ when should +∅ we should leave when]が得られる。図3を参照。

4) operatorという概念

生成文法では、言語はoperatorという要素を持つと考えられている。Operatorは、おそらく日本語で書かれた生成文法の教科書では演算子と訳されている概念で、文に作用し、その文を単なる叙述から、疑問や否定や条件(「もし~なら」の類)や関係詞節に変化させるという機能を持つ。単なる叙述を疑問に変えるquestion operatorや、単なる叙述を否定文に変えるnegative operatorや、単なる叙述を関係代名詞節に変えるrelative operatorや、単なる叙述を条件節に変えるconditional operator等が存在すると想定されている。

ここで先ほどのwh-疑問文When should we leave?を検討して見たい。これは以下にもう一度載せる図3のように、CPの指定部にwh-疑問詞whenを取るCPだと分析することができる。

図3

この文で疑問のoperatorとして機能しているのは、文頭のwhenではなかろうか。このwhenがあるおかげでこの文が単なるyes-no 疑問文でなくwh-疑問文であると分かる。ということは、whenは単なる疑問のoperatorというよりも、wh-question operatorとして機能しているようである。

さて、ここでyes-no疑問文を考えてみたい。Should we leave now?等のyes-no 疑問文は本当にCPの指定部に何もないのだろうか。

生成文法では、wh-疑問文と対応して、このようなyes-no疑問文もYes-no question operatorを持つと考えられている。そのoperatorが来る位置は、wh-疑問詞と同じCPの指定部だと考えられている。こうしたyes-no question operatorをがCPの指定部でその機能を果たしているがゆえに、文が上昇調(文末にかけてイントネーションが上っていく)で読まれ、yes-noで回答するのが適切な疑問文になるという。

このようなyes-no疑問文の作り方は以下の通りである。(図4を参照)VP[ leave now]とT-should をmergeして(くっつけて)、T- bar [ should leave now ]を作る。このT-bar [ should leave now ]と代名詞weをくっつけて、TP[ we should leave now ]を作る。このTPを疑問のC-∅とくっつけるわけだが、今回、このC-∅はT-feature しか持っていないと想定されている。このC-∅とTPをくっつけると、T-bar [ ∅ we should leave now]が得られる。このCが持つT-featureにより、Tの要素shouldが引っ張り上げられてくる。その結果、C-bar[ should+∅ we should leave now]ができる。

図4

こうしてできたC-barであるが、何か足りない。どうしてこの文がyes-no疑問文として解釈されるのか(要するに、yes-noで答えるのが適切な疑問文として解釈されるということ)が分からない。さらに、なぜ文全体を上昇調で読み上げるのかが分からない。ここで、このC-barをyes-no question operatorとくっつける(mergeさせる)。すると、CP[ Opynq should+∅ we should leave now]が完成する。樹形図は図4のようになり、wh-疑問文と対照的な形が出来上がる。ちなみにyes-no question operator (Opynqと表記)は音声表示を持たないとされる。つまりnull constituentなのである。よって、発音に現れることはない。

このようにして疑問文を作ること、そしてここでは省略したが、同様にoperatorを用いて条件のif節や、関係代名詞節などを作っていくことなどを考慮に入れると、clause typing conditionは以下のようになる。

  Clause typing condition: CPのタイプはそのCPのedgeで決まる。

  • ①CPの指定部にwh-question operatorがあれば、そのCPはwh-疑問文として解釈される。CPの指定部にyes-no question operatorがあれば、そのCPはyes-no疑問文として解釈される。CPの指定部にexclamative operatorがあれば、そのCPはexclamative(感嘆文)として解釈される。CPの指定部にrelative operatorがあれば、そのCPはrelative clause (関係代名詞節)として解釈される。Etc. 
  • CPの主要部がif やwhether 等疑問のcomplementizer(補文標識)であったならそのCPは疑問として解釈される。CPの指定部に何もなく、主要部も何か特殊なものを用いていない場合、デフォルトでそのCPは断定として解釈される。

注)

1,complementizer/ complementizer/Cとは、補部(complement)にTPを取る機能範疇(functional category)だとされる。現代英語では、I know [ that he has resigned].に使われるthat等がCの代表例である。詳しくは「生成文法解説3」を参照。

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作成者: hiroaki

高校3年の時、模試で英語の成績が全国平均を下回っていた。そのせいか、英語の先生に「寺岡君、英語頑張っている感じなのに(笑)」と言われたこともある。 しかし、なんやかんや多読を6000万語くらい積んだら、ほとんどどんな英語文献にも対処できるようになった。(努力ってすごい) ゆえに、英語文献が読めないという人は全員努力不足ということなので、そういう人たちには、とことん冷たい。(努力を怠ると、それが正直に結果に出る) 今は、Fate Grand Order にはまってしまっていて、FGO 関連の記事が多い。

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