吐きそう(1) 勉強が進まない

1、続く体調不良

僕は現在、今年の12月中旬を完成の目標とした論文に取り掛かっています。

しかし、ここ二か月ほど、体調不良のせいで、なかなか勉強が進みません。

10年くらい前から鬱を抱えており、その症状が悪化しないように、ここ2~3年はやってきているつもりです。

もともとこうなったのは、すでにこのブログのほかの記事で述べたように、英語文献に対処するために、尋常ならざる足掻き方をしたからです。

英語文献に歯が立たないので、出版社の力で専門家を召喚している「ゆる言語学外注ラジオ」という You Tube チャンネルを、以前糾弾したことがあります。

その時に視聴者から、以下のようなコメントをいただきました:

英語文献ってそんなに難しいものなのか? 英語よりも理論のほうが難しいのではないか?」

僕がこの質問に答えるとすれば、「そういうケースもあるが、言語学をやる際の一番の障碍は、やはり英語文献である」となります。

嘘だと思うのなら、Chomsky (2021a) を参照してみてください。下のリンクから飛べるはずです。

https://doi.org/10.11435/gengo.160.0_1

はっきり言って、ここで紹介されているアイデアは、さほど難しくありません。

もしこの論文が難しいと思うのなら、それは理論が難しいのではなく、英語が難しいからです。

参考までに、この論文では以下のようなことが解説されています。

① workspace 理論

workspace 理論というのは、従来から指摘されていた Merge の欠点を克服すべく導入された概念です。

Merge は、二つの syntactic object (要素のことだと思ってよい)をくっつけて、an unordered set を作るものだと定義されていました。ゆえに、Merge (X, Y) = {X, Y} という図式が成り立ちます。

この図式は、X と Y から、an unordered set {X, Y} を作るという意味です。

しかし、Merge の input (材料みたいなもの)として使った X と Y が消え、{X, Y} という新たな構造物 (syntactic object) が誕生していることから、文献では、「X と Y はどこに消えてしまったのか問題」として、Merge の定義の欠陥が指摘されていた (らしい)。

確かに、数学ではこういう場合に、X, Y, (X, Y) と表記するらしいです。これなら、X と Y がまだ消えていないということが一目瞭然でしょう。

しかし、数学と人間の言語は違うので、Chomsky は上の論文で、Workspace という概念を導入しました。

Chomsky (2021a) は、Merge は Workspace に作用するものだと定義しました。

Workspace を簡潔に説明するのは難しいです。なので、少し回りくどい方法を使います。

1990年代、Merge は lexicon にある要素に直接作用するのではなく、numeration 上にある要素に作用するといわれていました。

Workspace は、この numeration を引き継いだ概念なのでしょう。

WS = [ a, b, c, d]

さて、現在 Workspace 上に a, b, c, d という4つの要素があるとします。単語が4つあると考えても大丈夫です。

Merge は、この Workspace に作用し、新たな Workspace (WS’) を生み出します。

WS’ = [ {a, b}, c, d ]

こんな感じです。Chomsky の主張は、こうしてできた WS’ でも、a, b, c, d はアクセス可能な要素(=次の Merge のインプットに使える)として残り続けるというものです。

また、Merge は syntactic object を作り出す操作なので、{a, b} という新たな syntactic object も生み出されています。

即ち、アクセス可能な要素の数は、WS では a, b, c, d の 4 つ。WS’ では a, b, c, d, {a, b} の5つです。

② Form Copy

生成文法のキーワードとして、「derivation は Markovian である」というものがあります。

これだけでは、一体何のことやらわかりません。

Markovian とは、”memoryless” とも形容され、「以前の状態に影響されない」ということです。

要するに、derivation は「どうやってその状態になったのか」がわからないのですね。

derivation が Markovian であることは、僕の記憶が正しければ、1950年代くらいから議論されていたことです。

さて、これのどこが問題なのでしょうか。

一番大きな問題は、copy です。

{Tom, {INFL, {Tom, {v*, {play, {the, piano}}}}}}

という derivation があったとして、Tom は copy だとされています。

正しくは、一度作った構造を変更できないとする No Tampering Condition (NTC) により、Tom のほうが copy のはずなのですが (Pesetsky 2013) 、そこは今割愛します。

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カテゴリー: Hiroaki

作成者: hiroaki

高校3年の時、模試で英語の成績が全国平均を下回っていた。そのせいか、英語の先生に「寺岡君、英語頑張っている感じなのに(笑)」と言われたこともある。 しかし、なんやかんや多読を6000万語くらい積んだら、ほとんどどんな英語文献にも対処できるようになった。(努力ってすごい) ゆえに、英語文献が読めないという人は全員努力不足ということなので、そういう人たちには、とことん冷たい。(努力を怠ると、それが正直に結果に出る) 今は、Fate Grand Order にはまってしまっていて、FGO 関連の記事が多い。