morphology(形態論)およびsyntax(統語論)による品詞分類の試み【生成文法解説1】

1)伝統文法的枠組み

品詞とは、単語の分類分けである。無数にある単語を、何の分類もせずに一緒くたに扱うと煩雑である。よって、分類しようという流れになる。

ただ、その分類法も諸家により様々であり、なかなか一本化しにくい。自分が英語教師をしていたころの教え方は基本的に伝統文法(歴史的な枠組みで英文法を考える流派)と一致しているはずなので、そこから紹介しよう。

・名詞

名詞とは、物や事を言い表す単語である。cat, dog, station「駅」, information「情報」, Tokyo, Johnなどが名詞である。これらは、文の主語になることができるし、目的語になることもできる。

主語とは、動作主や想いの主体である。目的語とは、動作や想いの対象である。

以下の車線部が主語、下線部が目的語である。

I opened the door. 「私はドアを開けた。」

Nancy loves Smith. 「ナンシーはスミスを愛している。」

例からも明らかなように、日本語では「は」が主語、「を」が目的語のしるしとしての機能を果たしている。

・動詞

動詞とは、動作や存在を表す単語である。Play, swim, kill, be, などが動詞として挙げられる。

・形容詞

形容詞とは、状態を言い表す単語である。名詞の直前や直後に置かれてその名詞を修飾する(情報を付け加える)場合と、be動詞などの連結動詞(be, become, 等be動詞の仲間)の後に置かれて補語(be動詞などの連結動詞の後ろに置かれて主語とイコール関係になる要素)になる場合がある。

以下の下線部が形容詞である。

Andrew has a red car.

Andrew’s car is red. 〔red「赤い」は補語。Andrew’s car=redの関係性が成立〕

・副詞

副詞とは、形容詞や動詞、さらには文そのものや、他の副詞に対し、程度(どれくらいか)、様態(どのように)、頻度、場所、時などの情報を加える単語である。さらに、2語以上のかたまりが全体として副詞として働く副詞句などが存在するが、ここでは単語のカテゴリー分けを優先するため省略する。

Dixon went to hospital yesterday.

John found the key here.

He plays basketball very well.

A very nice car

Unfortunately, my employer is a scum. 「残念なことに、僕の雇用主はクズです」

などの下線部が副詞であると言えよう。

最後の例は、Unfortunatelyという副詞が文そのものに対する話者の評価や感想を述べていると考えられる。このような使い方をする副詞を、文修飾の副詞と呼ぶ。「残念なことに~」や、「~というのは残念だ」と訳すとうまくいく。

・前置詞

in, at, to, from等が前置詞と呼ばれ、to the station「駅へ」や、from Japan「日本から」のように、名詞を従え、全体で副詞句や形容詞句を作る。

・冠詞

a, the等、名詞の前に置かれ、意味を限定すると考えられている。

・接続詞

語と語、句と句(2語以上からなるかたまり)、文と文を結びつける役割を持つとされる。

Tom and Jones, 等のandが代表例。また、I have studied this language since I entered junior high school.「中学に入学してからこの言語を勉強している。」のsinceも、後ろに文が続いているので接続詞と分類されている。

大まかなものでもこれだけになる、他にも代名詞や疑問詞、助動詞、間投詞等、挙げればきりがないが、煩雑になるのでここでは触れない。こうした分類は一定の成果を上げているが、多少の問題を抱えていることも否めない。

2)従来の品詞分類では説明が難しいもの

・since

この単語は、I have studied English since January. 「1月から英語を勉強している」のように、「since +名詞」の形で使われることもあれば、I have lived alone since my wife died this March.「この3月に妻が死んでから一人で暮らしている。」のように、文を従えることもある。さらに、I haven’t seen her since.「それから彼女を見ていない」のように、since単独でも使われることがある。

もし、従来の品詞分類法(伝統文法の物)に従えば、since January のように、直後に名詞を従える場合は、全体で副詞の役割をしているので、sinceは前置詞。since my wife died this March のように文を従える場合は、sinceは接続詞。そして、since単独で使われる時は副詞となる。

つまり、since一単語が使われ方次第で、副詞、前置詞、接続詞という3つの品詞に分類されてしまうことになる。

・前置詞の副詞用法?

前置詞は、英語でprepositionと言い、pre「前」+position「置く」という要素から命名されている。名詞の前に置くからこの名前ができた訳だが、不思議なことに、後ろに名詞が来ない用例もある。

Go off「立ち去る」は、offの後ろに名詞を従えない。

Go on 「続く」は、onの後ろに名詞を従えない。

このような場合、前置詞は一語で副詞として扱われる。off「去っていく」、on「継続」というイメージを持ち、動詞を修飾していると考えられている。

また、out of the window 「窓から外へ」のout は後ろに名詞を従えない。伝統文法では、out of で1セットの群前置詞という扱いになっているが、前置詞の一種の例外と言えよう。

・形容詞と冠詞の差

形容詞は、a red carのように、名詞の直前に置かれてその名詞を修飾する用法がある。冠詞にも、a carのように、名詞の直前に置かれてその名詞を修飾(限定?)する用法がある。このことから、冠詞を形容詞の一種だとする考えが生まれても致し方ない。両者を明確に区別する方法が必要である。

・this, that等の指示詞と冠詞の差とは

this, that, these, those 等は直接の指差し行為を用いて、「これ」や「あれ」と指す機能がある特別な単語である。This is a pen. も、直接の指差し行為が必要。これらの単語は、このように単独で使われるだけでなく。This pen is mine.等のように、名詞の直前に置かれ、その名詞を修飾するような働きがある。これとa, the等とは、何か違いがあるのだろうか。ないとすると、指示詞thisと冠詞the, a が共通して属する新しいカテゴリーが必要となる。

  • 意味による品詞分類の限界

動詞は動作を指し示すと述べたが、assassination「暗殺」は、the assassination of the president「大統領の暗殺」のように、theの後ろに置かれるので明らかに名詞である。それに、副詞は場所や時を表す単語と述べたが、Cambridge やTokyoは確かに場所を示すが、Tokyo is a large city.「東京は大都市だ」の例にあるように主語として使えることから、名詞である。これらの課題をどう解決するかが問題となる。

3)morphology(形態論)とsyntax(統語論)による分類

一般的に文法と呼ばれている物は、morphology(形態論)とsyntax(統語論)という2つの分野に分けることができる。

Morphology(形態論)とは、morpheme(形態素)と呼ばれる、意味を持つ最小の単位をどう組み合わせて1つの単語を作るかを研究する分野である。例えば、playに人を示す接辞-erをつけて、playerという単語を作る、と言った具合である。

Syntax(統語論)とは、こうしてできた一つ一つの単語をどう組み合わせて正しい文を作るかを研究する分野だと考えてよい。例えば、You can play the piano.は正しい文であるが、*the you play can piano.は非文(正しくない文)だと解釈される(*は非文の印)。それはなぜかを考えるのもsyntaxの範囲に含まれる。(むしろ、こうした非文がなぜだめなのかを考えるのがsyntaxの中心になってきている感が否めない。)また、Can you play the piano?も正しい文だが、先ほどの文と意味が違うと解釈される。それは何故かを考えるのもsyntaxの範疇である。

さて、こうしたmorphologyとsyntaxの考え方を導入すると、品詞の分類が先ほどよりもうまくいく場合がある。

Morphology の知見には、inflexion(屈折、あるいは活用)とderivation(派生)が含まれる。Derivation(派生)で有名なのは、形容詞に-nessをつけて名詞にすると言った類である。ill+-nessでillnessを作るのもその一つである。

英語は、inflexion(屈折・語形変化・活用)に乏しい言語であるが、品詞によっては、inflexionによる識別が有効に働くものもある。名詞はinflexion(屈折・語形変化)によってnumber(数)を示す。dog/dogs, ox/oxen「牛」のペアから明らかなように、語形変化で単数と複数を示すものは名詞であると言える。状態を示すものは形容詞だと述べたが、fool「馬鹿」とfoolish「馬鹿な」はどちらも状態を示す。ただ、*foolishsは複数形にできないが、foolは、foolsと複数形にできることから、名詞であると判断できる。

ただし、不可算名詞(furniture)や単複同形の名詞(sheep等)は、単数、複数の対立を持たない。こうした場合に有効なのが、syntax(統語論)による分類である。

I like the (    ). という文で、(   )に一単語だけ入れて文を終わらせようとすると、名詞しか入れることができない。

I like the dictionary. (名詞)

*I like the read. (動詞)

*I like the should. (助動詞)

*I like the and. (接続詞)

I like the a (冠詞)

など、名詞以外を入れると非文になる。

面白いことに、自分でやっていて、I like the play. 「その劇が好き」は大丈夫だと分かった。これは、このテストの信憑性が低いのではなく 動詞play「スポーツなどをする」は、名詞としても「劇」の意味を持っているからである。I like the will. も統語的に可能で、この場合のwillは助動詞ではなく名詞で「意志」の意味であろう。

Inflexion(屈折・語形変化・活用)での判断は動詞でも有効である。

命令形:Play the guitar.

原形:I would like to play the guitar.

3人称単数形:He plays the guitar.

過去形:I played the guitar.

進行形:I am playing the guitar.

完了形:I have played the guitar.

このような活用を示すものは動詞である。特にhave+(完了形)-edで現在完了として使われるものは確実に動詞である。ただし、動詞letは、let(原形)、let(過去形)、let(完了形)であるために、この基準がうまく当てはまらない。このような不規則変化動詞と呼ばれる例外が存在することも念頭に入れなければならない。

そこで、syntax(統語論)による判断を使う。I can (       ). という文の(    )に一単語を入れて文を終わらせることができれば、動詞であると言える。

I can wait.(動詞)

I can swim. (動詞)

*I can piano. (名詞)

*I can happy(形容詞)

:I can the. (冠詞)

など、動詞以外を入れようとするとことごとく非文ができてしまう。(そもそも、なぜこういった統語的な判断が使えるかどうかは次回以降に解説する。)

形容詞と副詞をmorphologyとsyntaxの判断基準で識別するのは難しい。言語学の世界では、形容詞と副詞が共通して属する上位カテゴリーが存在することも指摘されている。Radford (1988) そのためか、形容詞と副詞どちらにも当てはまってしまう基準がある。

形容詞と副詞を他の品詞(名詞や冠詞等)から識別する際、Morphology(形態論)の観点から一番分かりやすい基準は、 -er/-estで比較級や最上級を作るのは形容詞か副詞だけである、というものであろう。確かに、tall(形容詞)は、taller/tallestと言えるし、fast「はやく」 (副詞)は、faster/ fastestという比較級、最上級を作る。一方で、名詞pianoは、*pianer/*pianoestという比較級、最上級を持たないし、冠詞theは、*ther/ *thestという比較級、最上級を持たない。ただし、intelligent「賢い」(形容詞)のような長い単語は普通、*intelligenter/ *inteligentestというふうに比較級や最上級を作らない。代わりに、He is more intelligent. のようにmoreやmostを使うのが普通である。(実は、こういう風習?ができたのは意外と最近で、昔の英語では違うやり方をしていたらしいが、それは別の機会で触れる。)

Morphology(形態論)関連で触れておくべきなのが、多くの形容詞が、語尾にlyをつけることで副詞に変化する点である。

Happy(形容詞)「幸せな」⇒happily(副詞)「幸せに」

Slow (形容詞)「ゆっくりの」The car was moving at a very slow speed. (LDCE6)

⇒slowly(副詞)「ゆっくりと」the car was moving slowly.

Angry(形容詞)「怒っている」⇒angrily(副詞)「怒って」

このように、語尾に-lyをつけるだけで形容詞を副詞に変えることができる例の多さから、両者は非常に深い結びつきがあると考えられている。

Syntax(統語論)の観点から形容詞と副詞を識別する際には、以下の基準を用いる。

「とても」の意味で使われるvery、「本当に」の意味で使われるreallyの後ろに出現するのは形容詞か副詞だけである。ゆえに名詞や冠詞や動詞などは出現できない。

例えば、

He is very (      ). 「彼はとても~」の(    )に一単語だけ入れて文を終わらせようとすると、形容詞しか入れることができないはずである。

He is very happy. (形容詞)

He is very hungry. (形容詞)

He is very angry. (形容詞)

*He is very man. (名詞)

*He is very wait. (動詞)

また、He behaved really (       ).  「彼は本当に~に振る舞った」では、(   )に一単語を入れて文を終わらせる場合、副詞しか入れることができないはずである。

He behaved really badly. (副詞)

*He behaved really bad. (形容詞)

形容詞と副詞の違いは、形容詞は名詞を修飾する際に用いられ、副詞は動詞や形容詞等、名詞以外を修飾する際に用いられると言えるかもしれない。

例えば、a really (      ) car のように、名詞を修飾するように統語的に設定した例では、(    )の中にはnice(形容詞)、old(形容詞)と言った形容詞しか置くことができない。一方で、He walks (      ). というように動詞を修飾するように設定したテストでは、slowly(副詞)「ゆっくりと」は可能だが、slow(形容詞)「ゆっくりとした」は不可能である。

このように形容詞と副詞の分布を考察していくと、統語的に形容詞が出現できる位置に副詞が出現することができず、副詞が出現することができる位置に形容詞が出現することができないことが分かってくる。

-lyをつけるかつけないかで両者はカテゴリーをかなり自由に変えることができるという事実「slow(形容詞)/ slowly(副詞)」。さらに、比較級や最上級等、両者に共通する形が存在するという事実からも、形容詞と副詞の2つでより上位のカテゴリーを形成している可能性が高い。例えば、奇数と偶数は、数直線上で奇数が出る位置に偶数は出ることができない。これは形容詞と副詞の分布に似ている。そして、奇数と偶数が合わさって、整数という、より上位のカテゴリーを形成している。任意の整数を取り出した場合、それは奇数か偶数かのどちらかであり、どの奇数、偶数も整数というより上位のカテゴリーに属する。このように、形容詞と副詞も、2つ合わせてより上位のカテゴリーを作っているようだが、名前がまだない。

冠詞をmorphology(形態論)及びsyntax(統語論)の観点から考察すると、面白い事実が明るみに出る。冠詞は名詞の前に置かれて、a manのように、まるで名詞を修飾(限定?)するように使用できることから、同じく名詞の直前に置かれて、a tall man のように名詞を修飾できる形容詞の一種ではないかという疑問を提示した。

ただし、冠詞と形容詞はその振る舞いが全く違う。形容詞は、a tall manのように、名詞の前に一つだけで置かれることもあるが、a tall dark manのように2語置かれることもある。さらに、a tall dark handsome manのように3語も可で、a tall dark handsome funny rich manのように、事実上、思いつく限り何語でも名詞の前に連続しておくことが可能である。しかし、冠詞は、*a the manのように重ねて使用することができない。

さらに、冠詞を使用する場合は、語順が厳しく指定されており、a red carとは言えるが、red a carという語順は許されない。

冠詞を使う際のこういった制約はなぜ生じるのかを説明するためには、head(主要部)、complement(補部)という専門用語を用いると一瞬で説明することができるのだが、それは次回以降するとして、今回は専門用語をなるだけ排して説明して見たい。

a carという句(2語以上のかたまり・フレーズ)を作るとしよう。carという名詞の直前に冠詞aがくっつくと考えてほしい。もしくは、aという冠詞にcarという名詞がくっつくと考えても構わない。こうすることで、a carという句を作ることができる。

今度は、a red carという句を作ってみよう。この時、redという形容詞とcarという名詞が最初にくっつくと考えてほしい。すると、red carという句(フレーズ)が誕生する。形容詞と名詞をくっつけて作った句であるが、よく考えると、全体で名詞としての性質を持っていることに気が付く。証拠に、red carというのは、car「車」の一種であって、red「赤い」の一種ではない。とすると、[red car]という2単語の句(フレーズ)が全体で名詞の性質を持ち(こういうものを名詞句と呼ぶ)、冠詞aは後ろに名詞を要求するので、全体として名詞としての性質、機能を持つ[red car]が冠詞aの後ろに置かれる。この瞬間[a red car]という句(フレーズ)は性質が変わってしまう。証拠に、後ろに名詞(または名詞句)を要求するtheに続くことができない。*the [ a red car] 一方で、[red car]だけなら名詞句なので、後ろに名詞(または名詞句)を要求するtheに続くことができる。the red car

このことから、a やtheがついた瞬間に、その句は名詞としての性質を失い、他のカテゴリーに変わってしまう。(専門用語で、determiner phrase決定句や冠詞句と呼ばれるものに変わる)ということは、aやtheをつけない限り、carやmanなど名詞の前に何個形容詞をおいても全体で名詞としての性質は失われないはずである。というより、形容詞は、名詞や名詞句の前につけることができるということもできる。試しに、manは名詞である、これに形容詞handsomeをつけても、[handsome man]は全体で名詞としての性質を保ったままである。さらに、形容詞darkをつけても、[dark handsome man]はやはり全体として名詞句である。名詞や名詞句には形容詞を修飾語としてつけることができるので、ここに形容詞tallをつけることができるはずである。やはり[tall dark handsome man]は可能であるし、全体として名詞句である。全体として名詞句であれば、名詞一単語の時(即ち、man)と振る舞いが同じであるはずなので、the manのように、前に冠詞をつけることができるはずである。そしてやはり、the [tall dark handsome man]と言えることから、この分析が正しいことが分かる。ただし、the をつけた瞬間、[the tall dark handsome man]は名詞句としての性質を失ってしまう。その証拠に、この前にさらに形容詞を置くことはできない。*rich [the tall dark handsome man]

また、this man, that car等の使われ方をするthisやthatも冠詞a, the と共通する点があるかもしれないと述べたが、まさにその通りで、this tall handsome manのように、aやtheと同じような使われ方をする。The this man のように重ねて使えない点も同じであることから、this, that, a, theや共通のカテゴリーに属すると指摘されている。このカテゴリーをdeterminer(決定詞)と呼ぶ。

morphology(形態論)およびsyntax(統語論)の観点から前置詞を考察してみたい。英語では、前置詞(および前置詞句)だけがrightとstraightで意味を強められるという。(Radford 2016: 65)

Go right up the ladder.

He walked straight into the wall.       (Radford  Ibid.)

いずれの例も、right, straightは意味を強める働きをしているだけなので、訳に出にくい。

Right, straightは意味を強める働きとしては、他の品詞と共には使われない。

*She is right pretty. (right+形容詞)

*They are right fools. (right+名詞)    (Radford  Ibid)

また、英語の前置詞は他動性(transitive)を持つとされている。これは、直後に名詞が置かれる際、その名詞が目的格(accusative)になるという特徴である。Kill等の他動詞も同様の特徴を持っており、直後に置かれる名詞が目的格を取る。

Nancy killed him. (他動詞+目的格)

*Nancy killed he. (他動詞+主格)

I waited for him. (前置詞+目的格)

*I waited for he. (前置詞+主格)

前置詞が持つ興味深い特徴の一つが、直後に名詞を置かず、単独で用いる用法がある点である。(専門用語を使えば、complement「補部」を持たない、head「主要部」のみでの使用が見られる)

  1. The boy fell off the bike. 「バイクから落ちた」
  2. The boy fell 「落っこちた」
  1. He jumped over the fence.
  2. He jumped over.        (Radford 2016: 66)

の用法では、いずれも前置詞の直後に名詞が存在するが、(2)の用法では前置詞の直後に名詞が存在しない。これら(2)の用法の場合、前置詞はどう扱えばよいのだろうか。伝統文法の立場では、単独で動詞を修飾しているので副詞と考えられている。だが、syntaxの立場では、

  1. The bullet went right through the door. 「銃弾はドアを貫通した」
  2. The bullet went right   (Radford Ibid)

この2例から明らかなように、どちらもrightで意味を強めることができるので、前置詞として扱う。

これは、動詞help「助ける・~を助ける」が、

  1. I can help you.
  2. I can help.

このように、後ろに名詞を伴っていようがいまいが動詞として扱われるのと本質的には同じである。

さらに、動詞seeは、

  1. I can see.
  2. I can see you.
  3. I can see you failed.

のように、後ろに(1)後ろに何も取らない、(2)後ろに名詞を取る、(3)後ろに文を取る、という3つのパターンを持ち、そのいずれの場合も動詞として扱われる。(ただし、3は、I can see that you failed.のように、thatを入れたほうが普通だろう。だが、そうすると、ここでの議論が煩雑になるので省略する。)

動詞seeのような3パターンを持つ前置詞も存在する。例えばsince「~から」である。

  1. I haven’t seen her since. 「それから彼女を見てない」
  2. I haven’t seen her since January.
  3. I haven’t seen her since I met her at the party. 「パーティであってから彼女を見ていない」     (Radford 2016: 67)

Sinceは、(1)後ろに何も取らない、(2)後ろに名詞を取る、(3)後ろに文を取る、という、動詞seeと同じ3パターンで使用される。Seeは3パターンとも動詞として扱われていたことから、sinceも同様に3パターンとも前置詞として扱った方が良いという結論が得られる。

この方法を採用すると、伝統文法のようにsinceは使用場面により、副詞、前置詞、接続詞という3つの品詞に分けられるという煩雑さから解放される。代わりに、前置詞というものが後ろに、(1)何も取らない、(2)名詞を取る、(3)文を取る、という3択の機能を持ちうることになる。ただし、こうした複数の選択肢があるのは一部の前置詞だけであり、全ての前置詞がこうした特徴を持っていないことに注意しなければならない。

こうした複数の用法を持つ前置詞は、

  1. I met her before.  「彼女と以前会った」
  2. I met her before the party. 「パーティの前に彼女と会った」
  3. I met her before the party began. 「パーティが始まる前に彼女と会った」

等である。

余談になるが、西暦1100年頃までの英語では、before that the party began. という、thatをつけるのが普通だったらしい。Fennell(2001)によれば、こうした接続詞と前置詞の両方の働きを持つ単語は、昔は前置詞用法だけを持っていたようである。そのような単語を接続詞として使い始めた初期のころ、後ろに文が続く場合、読者が前置詞としての用法と勘違いしないようにthatを直後に入れたらしい。Radford (2018)では、parameter shiftという概念で説明されているが、話がややこしくなるのでここでは触れない。

また、out of the door. のように、後ろに前置詞句(of the door)を取る前置詞も存在すると考えると、because of himのような形も、becauseが前置詞であることを示す一例となる。(Radford 2016: 68)

参考文献)

Radford, A. (1988) Transformational Grammar – A First Course, Cambridge; Cambridge University Press.

Radford, A. (2016) Analysing English Sentences second edition, Cambridge: Cambridge University Press.

Radford, A. (2018) Colloquial English –Structure and variation, Cambridge; Cambridge University Press.

Fennell, B. A. (2001) A History of English – A Sociolinguistic Approach, Oxford; Blackwell Publishing.

この記事は、主にRadford (2016)を参考にした。この本は生成文法を学ぶ人にとってはかなりの良著なので、ぜひ参考にしてほしい。

Radford, A. (2016) Analysing English Sentences second edition, Cambridge: Cambridge University Press.

作成者: hiroaki

高校3年の時、模試で英語の成績が全国平均を下回っていた。そのせいか、英語の先生に「寺岡君、英語頑張っている感じなのに(笑)」と言われたこともある。 しかし、なんやかんや多読を6000万語くらい積んだら、ほとんどどんな英語文献にも対処できるようになった。(努力ってすごい) ゆえに、英語文献が読めないという人は全員努力不足ということなので、そういう人たちには、とことん冷たい。(努力を怠ると、それが正直に結果に出る) 今は、Fate Grand Order にはまってしまっていて、FGO 関連の記事が多い。