1)ここが一番しんどい時期でした
大学3回生の終わりに英検1級に合格することができました。
前の記事(英語学習記2)で述べた通り、試験に通ったこと自体にほとんど意味はなく、試験の準備のために単語を覚えることで、洋書を読むための必要最低限の語彙を獲得できたようです。
ただし、本当に必要最低限の語彙でしかなかったようなので、シャーロック・ホームズ等、そこら辺の本屋で普通に売っているような洋書にはまるで歯が立ちませんでした。
1パラグラフ(段落)を読んでいると、いくつも英検1級レベルの単語を発見するのが普通でした。故に、英検1級レベルの単語は本当に覚えてよかったと言えます。
しかし、自分の分からない単語がまだまだ出てくるというのが、正直な感想でした。
これら英検1級レベルでもカバーできない英単語をどうやって覚えるか、当時の僕は思案に暮れていました。
英検1級対策の時のように、単語帳で覚えるというのも一つの手でしょう。
ただし、自分は、そのような高レベルの単語帳で、かつ良著であるという要件を満たす本を見つけることができませんでした。
確かにこのクラスの語彙をカバーしている本は存在します。
ただ、自分が苦手とする、一語一訳形式であったり、そもそも掲載されている語彙の数が少なかったりという問題を抱えていました。
そもそも、英検1級レベルの「試験に出る」単語は、学習者視点で見ても数が限られた、いわゆる「お決まりの顔ぶれ」クラスの重要語です。
何度も何度も試験に出題された単語が重要語として単語帳に掲載されるのです。そんなもの、所詮は数が知れています。
しかし、洋書を読んでいて普通に出てくる難易度が多少は高めの単語など、当時の僕からするとまさに無数にあるように思えました。
だからこそ、もうこのクラスになってくると、単語帳でどうこうできるものではないような気がしていたのです。
そこで僕がとった勉強法は、雑誌『CNN English Express』(朝日出版)をやりこむことでした。
この雑誌は、英検1級の勉強で使っていた単語帳(植田一三著)で紹介されていたものです。確かに、単語帳で勉強しつつ、語彙が豊富な英文を聴いたり読んだりするのは効果が高そうです。
『CNN English Express』(朝日出版)は月刊の英語学習誌で、CNN Newsの音声が入ったCDとスクリプト(原稿)、そして注釈と日本語訳がついていました。
このシリーズは本当に役に立ちました。
CNN Newsには、英検1級レベルの単語がわんさか出てきます。なので、単語帳で覚えた単語が、実際の英文でどのように使われるのが分かります。まさに良質な例文の宝庫でした。
それだけでなく、当時の自分が知らない難易度の単語も当たり前のように出てきており、語彙力の強化が図れます。
ただし、自分の知らない単語があまりに多く出ていたため、一冊やるのも本当に大変で、くたくたになったのを覚えています。
今思えば、当時の自分にとっては、難しすぎる教材だったのでしょう。(当時の『CNN English Express』は今と違い、内容が濃く、分厚かった)
それを自分は、1年くらいかけて、90冊(90か月分のバックナンバー)やり切りました。
なぜこんな「難しすぎる教材」で、背伸びした状態で頑張り続けられたのか、そこには、TOEICでの苦い体験があったからでしょう。
2)TOEICでの雪辱
大学4年時、英検1級取得から半年くらいたった時、就職活動にため、嫌々TOEIC を受けました。
さすがに、学生時代の頑張ったエピソードに英語学習しかないくせに、当時主流だった英語試験TOEICとTOEFL未受験未受験では話にならないと思ったからです。
ただし、嫌な予感がしてなりませんでした。
自分は、英検1級を取ったものの、英語の本当の実力はない。このことは、洋書が読めない自分自身が心得ていました。
そして、TOEIC等、英米人が主体になって作成したテストでは、自分が英語ができないことが見透かされてしまい、本当にひどいスコアが出てしまうのではないか、と疑っていました。
もしそうなると、客観的な証拠として、自分がいかに英語ができないか、言い訳不能な形で分かってしまうのではないか。
ここまで頑張っても全くできないのであれば、本当に才能がないことの証明になってしまいます。
こういった疑念に苛まれ、受験するのが本当に怖かったのです。
そして、この「嫌な予感」は完全に的中してしまいました。
もちろん、いつもの自分と変わらず、準備無しで試験に臨みました。
そして、半泣きになりました。
まず、リスニングが聞き取れない。半分くらいの問題を勘で答えた記憶が残っています。
さらに、リーディングでは、長文を読んでも理解できないし、そもそも最後まで読み進めることができませんでした。
結果は805点。英検1級を持ってる人なら900点台が当たり前と言われる試験でこのざまです。
本当に屈辱的でした。しかし、納得はしていました。
「俺ってやっぱり英語できないんだ」としみじみ感じました。
(なお、TOEFLも83点という悪い結果に終わりました。speakingが一番悪かったのですが、全体的に悪かったので、もうそれ以前の問題ですね。)
リスニング、リーディング、両方足りないことが分かったので、せめてどちらかでも何とかしたいという思い。
そして、『CNN English Express』という良い教材に出会えていたという事実。
この二つを糧に、僕はひたすら『CNN English Express』を朝から晩までやって、足りなくなったら本屋でバックナンバーを注文する、これを繰り返していました。
すると、4~5か月たつと、リスニングが伸び始めました。400点なかったところから450くらいにまで上がってきました。
それだけでなく、リーディングも伸び始めました。こちらも400点くらいから、430くらいにまで上がってきました。
ただ、いくら『CNN English Express』をやろうとも、TOEICのスコアが頭打ちになり始めました。
870~880くらいで段々伸び悩むようになったのです。
確かに、自分の力が伸びていないことは、自分でも分かっていました。
毎回TOEICを受けても、長文を最後まで読み切ることが不可能でした。たとえできたとしても、明確な根拠を持って解答できない問いが沢山あり、結果としてスコアにつながりません。
そもそも、この時はまだ洋書を読むことができなかったので、スコアが伸びないことには納得していました。
リスニングはCNNを聴いているだけあって、多少はましでしたが、それでもやはり伸び悩んでいるのが自分でもわかりました。
いくらCNNをやろうとも、スクリプト(原稿)を読んで確認する際、英文読解能力がないとかなり厳しいです。
そして、自分にはCNNのスクリプトを読みこなすだけの英文読解能力はありませんでした。
このとき気づいたのは、CNNのスクリプトは、一般的な洋書に近い難易度があるということです。
つまり、洋書が満足に読めない人は、CNNで苦労するのです。
『CNN English Express』は英語学習誌という特性上、注釈が充実していました。
しかし、洋書を読むのが大変だと思うくらいの力しかないと、やはり大変です。そして、自分の英語力は、洋書を読む段階には達していませんでした。
そして思いました。洋書を読めるようにならねば。
3)レベル付き洋書に救われた
洋書を読めるようになりたいという気持ちは、大学1回生の段階からありました。そして、2回生の時、英文学の演習でコテンパンにされてから、より一層強くなりました。
ただ、こういった思いは単なる長期目標でした。
日本の大学で、日本語で授業を受けて、日本語の書籍を読んで日本語のレポートを書く。これでまかり通ってしまう日常がありました。
英文学専攻になってからもそうでした。確かに、原書を読めたほうがいいのでしょうが、現に翻訳が存在します。
そして、あるものをつい頼ってしまうのが人間というものなのでしょう。僕は、翻訳に頼りっきりでした。洋書が読めないからです。
こういったことの繰り返しで、洋書を読むことは、「いつかできたらいいのに」くらいに思っていました。
しかし、英語の勉強がここまで進んでくると、洋書が読めないと先に進めなくなってきます。
この時の僕は、かなり困っていました。
中学1年で英語を習い始めてから、たくさんの先生に英語を教わってきた記憶があります。
ただ、どの先生も、「英語をしゃべるのが大事だ」とか、「英語を話すには、音読が大事」など、口を開けば「英語を話す」関連のことばかりで、
誰もリーディングの大切さに触れていませんでした。ましてやどうやってリーディング力を上げるかなど、教わった記憶がありません。
唯一、リーディング力関連の話をポロっとしてくれた先生は、高校時代に教えてくれた竹岡広信先生だけでした。
竹岡先生は、模試で長文を読み終わらなかった人に対して、「かつて、時間内に長文が読み終わらないという生徒がいた。そいつに多読を勧めた。そいつは3000ページ多読した。そいつがどうなったか。制限時間の半分で長文を読み終わるようになった。」という話をしていたのをおぼろげに覚えています。
大学4年生の秋、英語の勉強が手詰まりになってきた僕は、この言葉を信用して見ることにしました。
本格的な洋書は読めない、なら、語彙が制限され、使われている文法事項も制限された洋書を読んでみよう、と思いました。
ここで目を付けたのが、いわゆる「レベル付き洋書」です。
いろいろな出版社から出されていますが、有名どころをいくつか挙げておきます。
- Oxford Bookworm Library (Oxford University Press)
- Penguin Readers (Penguin Books)
- ラダーシリーズ(IBCパブリッシング)
- Macmillan Readers (Macmillan Education)
- Cambridge English Readers (Cambridge University Press)
これらの洋書にはそれぞれレベルがついており、使用される語彙が制限されています。当然、レベルが上の物ほど使われる語彙の上限は高くなってきます。
例えば、Oxford Bookwormシリーズはレベル1~6まであり、レベル1は簡単、6は本物の洋書にかなり近い難易度になっています。
僕は、こういった「レベル付き洋書」を読み漁りました。
自分で買った物も多いですが、ありがたいことに、京都大学総合人間学部図書館(現在の吉田南総合図書館)はこの手の読み物がかなり豊富にそろえてあり、それを利用させてもらいました。
どれくらい利用したかというと。
ほぼ全部です。
そもそも、図書館にはどれくらいの数の「レベル付き洋書」が置いてあったのかというと、
Oxford Bookworm Libraryシリーズだけで、レベル1~6まで合計100冊以上ありました。このうち数冊は読めませんでした。難解で自分には手出しできませんでした。
Penguin Readersがレベル1~6まで合計200冊くらいありました。でレベル4までは、ほぼ全て読んだ記憶があるのですが、5以上が難解で、あまり読めていません。
Macmillan Readersは、確かレベル4以上の物が置いてあったと思います。50冊くらいありました。これは全部読みました。
Cambridge English Readersに関しては、レベル3以上が図書館にありました。50冊以上でしょう。ほぼ全て読みました。
ラダーシリーズは総合人間学部図書館にはほとんどなく、京都大学付属図書館に数冊ある程度でした。もちろん全て読みました。
なお、多読用の「レベル付き洋書」で、自分が買った物は多くの場合、大学図書館になかったラダーシリーズの物でした。
という訳で、300冊くらいは読みました。
どこにも就職できなかったので、5回生まで大学にいて、就活をしながらこういったレベル付き洋書を読んでいました。
単位は4回生の時点で全て揃っていたので、1年近く多読に専念していたことになります。
ゆえに、1日1冊のペースでも300冊は行くのです。
そして、多読を始めて3か月くらいで変化が出てきました。
TOEICが900点台に乗りました。
多読をしているだけで乗りました。リスニングが460、リーディングが450だったはずです。
結果的に、多読をしていると、リーディングだけでなくリスニングも伸びたことになります。
そして多読を始めて一番良かったのが、自分の英語読解能力が上っていくのが自分自身で分かったことです。
以前は難しすぎて挫折したレベル×の本が、半年後には余裕で読めるようになったりしていました。
そして、読めば読むほど、読解のスピードが上がっていきます。
TOEICでも、長文を制限時間以内に読み終えられるようになりました。多読を始めて1年くらいの時です。
この時のスコアが、リスニング460(やってなかったから上昇無し)、リーディング475でした。足して935点でした。
なお、TOEIC対策に費やした時間は0秒でした。
なぜこれほど多読を続けられたのか、それは単純に、面白かったからです。
それもそのはず、こういったレベル付きの洋書というのは、100年以上生き残っている名作を、簡単な英語で書き換えたものが非常に多いのです。面白くないわけがありません。
読んでいる内容が面白い、続きを読みたい。もっと読めるようになりたい。
こういう思いに突き動かされ、どんどん読んでいるうちに、大学図書館にあるものをほとんど全て読み切ってしまいました。
厳密には、全て読み切ったわけではありませんでした。
難しすぎて歯が立たないものや、内容が自分に合わないものは、一定の確率でありました。
しかし、総じて面白かったのです。特にMacmillan readersが。
これが楽しみで大学に行っていた面が大きいですね。
4)ついに普通の洋書が読めるようになる
レベル付き洋書を読み切ってしまった自分は、近くの棚に置いてあったナルニア国物語(Narnia)7冊もついつい惰性で読んでしまいました。
これは児童書ですが、レベルがついておらず手ごわかったですが、Oxford Bookworm Libraryの最高レベル(レベル6)を全て読んだ僕にとっては、もはや無茶ではありませんでした。
そして、ついに、ハリーポッターシリーズを読み始めました。
確かに難しい個所はありましたが、第1巻程度なら、それほど大きな苦労もなく読み終えました。
このことが何を意味しているか。それは、僕はこの時、本物の洋書を読む素地が出来上がっていたのです。
レベル付き洋書で、負荷の小さなトレーニング(むしろ遊び?)を続けるうちに、英語読解能力の足腰ができていたようです。
ただし、これは、レベル付き洋書の効果だけではなく、僕が今まで英単語を一生懸命覚えてきたり、文法をしっかりやってきたという基礎があってのことだということは、分かってください。