自己紹介
こんにちは、言語学研究家のヒロアキと申します。今、京都大学の大学院で言語学を専攻しています。
さて、僕はこれまでに英語の多読を5000万語以上続けてきました。そのおかげで、今では大抵の洋書をそれほど大きな苦労をせずに読めています。
そんな素晴らしい多読という訓練法ですが、残念ながら世の中には「多読を始めたいのだけれどどんな本から読み始めたらよいのか分からない」といった類の悩みを抱えている人が多いようです。
これは仕方のないことです。多読という勉強法を教わらないまま、僕のように大学までずるずる進んできてしまったというパターンが多いのです。
ということで、今回はまがいなりにも5000万語以上多読してきた僕がレベル別のおすすめ書籍を紹介していきます。さらに、レベル別の(そんなに有り難くもない)アドバイスもつけました。よろしければどうぞ。
1 初級レベル
このレベルの人の特徴が、『ハリーポッター』等の洋書の中でも簡単な部類とされる本に手も足も出ないことです。安心してください、僕も大学5年(viz. 就職浪人)の終わりごろまではこのレベルでした。日本人の内95パーセントくらいがこのレベルなのではないでしょうか。
あなたの目標がもし「洋書を読むこと」なら、当面の目標を「レベル付きの洋書を読みこなすこと」にしてみてはどうでしょうか。
レベル付きの洋書とは、英語学習者用に使用する単語のレベルに制限を付けたシリーズです。Oxford や Cambridge, Penguin (イギリスの大手出版社)やMacmillan 等、名だたる出版社がこういうシリーズを出版しています。
ここで主要なものを紹介しておくと、
- Oxford Bookworm Series
- Penguin Readers
- Macmillan Readers
- Cambridge English readers
- ラダーシリーズ
こんなものです。Cambridge は最近このマーケットに参入した言わば「新参者」です。なので、タイトルが心なしか貧弱な気がします。
初級レベルの人はまずこういったレベル付きの洋書に専念するのが得策かもしれません。僕も若かれし日に背伸びをして『グレートギャッツビー』や『ドリアングレイの肖像』等を読もうとしたことがあります。そうした「背伸び」をすると、決まって多読が嫌になってしまうくらいの(精神的な)大けがをしてしまいました。
ただし、こうした多読用の教材も所詮多読用の教材です。本物の洋書に出てくるような少しレベルが高めの語彙がほとんど見られません。
例えば、under the pipeline (起こりかかって)、allocate ~ (~を割り当てる), appease ~ (神の怒りなどを鎮める)、take the bull by the horns (厄介な問題などを逃げずに対処する)。
こういった語彙が先ほど紹介したレベル付きの多読教材で使用されることはまずありません。ちなみにこれは、レベル付きのリーダー教材をほぼ全てを読んだ僕だから言えることです。
なので、多読をしながら英語の語彙力を鍛える習慣をつけるといいのではないでしょうか。
上手くいくと、「語彙を増やす⇒多読することでそれが定着する⇒さらなる語彙の増強」という良いサイクルができるかもしれません。まあ、実際の学習はこんなにうまくいくことはまれなのですが、あくまでも概念的なものとして参考に入れていただければと思います。
さて、レベル付きの洋書の中でも小説などのフィクションよりもノンフィクションの方が僕の手応え的に読みやすかった記憶があります。ここにリンクを貼っておきますので参考にしてみてください。Oxford Bookworm Series の fact files というシリーズです。他の本より縦に長いので、図書館でも書店でもすぐに見つけることができると思います。
ある程度学習が進んでくると、レベルのついていない洋書の中で簡単な物に手を出せるようになってきます。僕の場合多読を始めて1年以上かかったそのレベルまで実力を伸ばしました。
当初はもうちょっとレベル付きの洋書を読んでいたかったのですが、図書館にある物(200冊以上)と自分で買った物を全て読み尽くしてしまったため、レベルのついていない物を読まなければいけない羽目になりました。
本の選び方が分かっていなかった自分はここでも色々失敗してしまいますが、結局「簡単な洋書ならもう読める」ということが分かりました。
かつての僕のように、「今までレベル付きの洋書ばっかり読んできた」という経歴の持ち主で、なおかつ「これからレベルのついていない洋書を読んでいきたい」という意欲がある人にどういう本がおすすめなのか、僕なりに記憶を頼りに選んでみました。
(レベルのついていない)本格的な洋書への入り口としてぜひ紹介したいのが、、Cirque Du Freak (The Saga of Darren Shan )というシリーズです。バンパイアもので全12巻。少なくとも10冊目くらいまでは話も面白いです。何より英語が平易なのが良いですね。
世間では「レベルのついていない洋書の入り口=ハリーポッター」という認識になっているのでしょうが、『ハリーポッター』シリーズは4巻目の序盤が明らかに難しいです。英語学習の暦が浅い人が全員あの難所を超えられるとは、どうしても僕には思えません。
2 中級レベル
中級レベルの実力を持っている人の特徴として、英語の多読が完全に習慣になっており、簡単なレベルの洋書を読むことを苦に思わないというのが挙げられると思うんですよ。ここで言う「簡単なレベルの洋書」とは『ハリーポッター』くらいのレベルです。
さて、多読中級者なら、『エラゴン』というシリーズを当たり前に読みこなせるはずです。
僕がこのレベルに達するのに3000万語くらいの多読量が必要でした。
このレベルに到達した人にぜひおすすめしたいのが、Cambridge Textbook of Linguistics 等、英語で書かれた教科書を読んでみることです。僕は言語学が専門なので Linguistics のシリーズをここで紹介しているのですが、物理学が好きな人は物理学の本を読んでみてください。
かつての僕は小説等のフィクションしか読んでいませんでした。でも、それは結構大変なことなんです。小説なら、世界観や登場人物の名前や人間関係などを覚えなければなりません。使われる語彙や表現もレベルが高く、英語学習者には負担が大きいように思います。
なので、英語で書かれた教科書等、ノンフィクションの分野に手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。書店の洋書コーナーには大体小説が置いてあると思います。それが小説ばっかり読む羽目になる原因なのですね。なので、amazon 等ネットで本を探すのもいいのかもしれません。
僕の場合は昔から英文法やそのメカニズムが好きだったこともあり言語学の教科書を読み始めました。また、英語がものすごくできる人から「小説は一番力がつくよ。でも論文の英語って簡単じゃん。」というひと押しがあったのも大きかったですね。要するに、論説文を読むほうが負担が少ないのです。
Oxford や Cambridge 等、英米の出版社から出された教科書を読んでみたら分かると思うのですが、『エラゴン』くらいの難易度の洋書が普通に読める人なら、こうした教科書を読むことにそんなに大きな苦労はしないはずです。さらに、教科書などの論説文が実際に小説よりも簡単だということも分かるはずです。
さて、物理学や生物学のように、自分の専門と呼べる科目がない人はどうしたら良いのでしょうか。僕も昔はそうでした。僕は京都大学の総合人間学部というところを出ているのですが、ここではどの科目も浅くしかできなかったため、自分の専門を深めるということをしないまま卒業してしまいました。なので当時の僕は「専門なし」の状態でした。
世間でこういう人が多いのかどうか分かりません。ただし、かつての僕みたいに「自分の専門なんてない」という人がいて、その人がこのレベルまで英語の多読を積んでいるとすれば、僕は言語学を推します。
その理由は、(1)物理学等理系の分野は数学の基礎量が要求される。よって理系ではない人には勧められない。(2)その一方で、言語学は基本的に必要要件が英語だけである。よって、ここまで英語を頑張ってきた人なら学習可能なはずである。(3)言語学には多くの下位分野が存在する。僕がやっている生成文法が肌に合わない人は世間的に多いと思うが、インドヨーロッパ比較祖語言語学や、音声学、語源学等本当に色々あるので、おそらくあなたの興味がわくような分野もあるはずである。
こんなところである。蛇足かもしれないが、cambridge から出ている言語学の教科書は、Cambridge Textbook of Linguistics というシリーズで良著揃いである。以下にリンクを貼っているので参考にしてみてはどうだろうか。赤い表紙が目印です。
3 上級レベル
あなたが上級レベルであり、かつ何か専門の分野があるなら、その分野の教科書はもちろんのこと、その分野の第一線の文献を直接読んで理解できるはずです。
僕の場合は Noam Chomsky の文献を読んでいます。Andrew Radford という教科書作りの名人が「Chomskyの著作を原書で読んで理解できるのは博士課程の学生でも一番賢い層だけ」という名言を残しています。
今僕は27歳で修士課程をやっていますが、Noam Chomsky の言語学の論文や著作を原著で読んで大体は理解できています。確かに苦労する局面には何度も出くわすのですが、それでもやはり全体の内容は分かります。
自分で言うとよくないのですが、さすが京大生です。
Noam Chomsky の著作のすごいところが、読みなおすたびに発見がある点です。まるで嚙むたびに味が出てくるスルメみたいです。
数あるChomsky の著作の中でも僕が一番好きなのが The Minimalist Program です。Chomsky の著作はほとんどが論文で100ページに満たないのですが、この本は4本の論文を合体させた(要するに発表した年代順に並べて一冊の本として出版した)豪華版です。
生成文法が苦手な人や、抽象的思考力が弱い人(理数系の科目が苦手な人)にとっては「地獄4倍」になるのでしょうが、僕にとってはまさに至高の快楽です。
生成文法というのは理論言語学と呼ばれる理論中心の学問分野です。当然理論が古くなって現在では使えなくなるという現象が頻繁に起こります。
しかし、Chomsky 等の真に考える力の高い人がどういう思考の過程を経てその結論に至るのかを負うだけでも僕にとっては知的な刺激になります。数学で真にすごい人の答案を読んでその人の志向の過程を追う感じです。
例えば、he speaks 等の一致現象を説明するために80年代につくぁれていた spec-head agreement という理論は90年代に入ると使われなくなりました。しかし、spec-head agreement という理論が誕生した流れや、それの反論をどのように見つけて、どうやってより優れた理論の正当性を主張するのかを追っていくだけでも僕にとっては価値のある経験なのです。
90年代には Agreement Projectionという、一致のためだけのフレーズが考え出されました。これが展開されているのが先ほど挙げた The Minimalist Program です。
ただし、フレーズの数を増やすこの理論も2000年代に入り廃止されて行きます。(まだ使っている学者はいます。)
2000年代になると、”Derivation by phase”という論文を皮切りに、probe-gole relation という素晴らしい理論が出てきました。さらに一致の定義までなされました。
こういう流れを追っていくだけでも知的に面白いのです。
さて、読者が疑問に思うことでしょうし、かつての僕がこれを読んでも絶対疑問に思ったことでしょうが、「分からないことってあるの?」という質問が容易に想像できます。
答えは「山のようにある」です。でも、僕は「分からないことを楽しむ」ようにしています。これは林修先生の『受験必要論』で語られていることですが、彼は幼少期から分からないことを楽しんでいたらしいのです。
分からないながらもそれを理解しようとしているうちに「咀嚼力(食べ物をかみ砕いて細かくする力)」がく耐えられたと彼は行っています。
僕は大学に入るまでは分からないことと出くわした経験がほとんどなく、大学に入った瞬間に分からないことしかなくなったので、病んでいた経験があります。
そんなかつての僕に送りたい言葉がこの「分からないことを楽しむ」です。この言葉を知ってからか、僕の適性がそうさせるのか、生成文法をやっていて分からないことと出くわしても、「まあ分かる範囲から理解していけばよくね?」という風に考えるようになりました。また、多少分からないことがあった方が読んでいてスリルみたいなのを味わえますし、今の僕は気に入っています。
まとめ:上級レベルなら、その分野で難解とされる文献を英語で読んでみてもいいのではないでしょうか。