ten と decade「10年」 は同語源【意外な英語語源】

どうも、ヒロアキです。

今回は、英単語の語源を掘り下げていきます。

英語で10を意味する単語は ten です。

一方、「10年」を意味する単語は decade です。

一見、全く異なるこの二つの単語ですが、実は同語源です。

動画でも解説しましたが、ここではもう少しコンパクトにまとめてみました。

以下の内容は、 Oxford English Dictionary (OED) に基づくものです。

1. decade の語源

decade 「10年」は、察しの良い人なら分かると思いますが、ラテン語由来の単語です。

(厳密にはラテン語⇒フランス語⇒英語、という流れで英語に入って来た。)

OED によると、decade は、ラテン語 decas, decad-em 「10年、10日」からできた単語らしいです。

このラテン語 decad-emは、ギリシア語 δεκάς (dekas), δεκάδα (dekada) からできた単語だそうです。

ギリシア語 δεκάς (dekas), δεκάδα (decada) は、「10のまとまり」という意味です。

そして、このギリシア語 δεκάς (dekas), δεκάδα (decada) は、δέκα (deka)「10」という単語からできたそうです。

全て「デカ」という音と、「10」という意味が共通していることから、同語源であることが良く分かりますね。

また、ギリシア語 δέκα (deka) 「10」は後々登場するので、覚えておいてもいいかもしれません。

まとめると、英語 decade は、究極的にはギリシア語 δέκα (deka) 「10」まで語源的に遡ることができます。

ただし、これは記録が残っている範囲での話です。記録の残っていない言葉も再建することができます。そうした再建された言語も含めた場合、decade「10年」の語源はもっと遡れます。

2. decade と同語源の単語たち

decade の語源が分かったところで、大して役に立ちません。同語源の単語を知った時、語源というものは効力を発揮するのです。

decade「10年」と同じ語源を持つ単語として、以下のようなものがあります。

decimal 「10の、10に関する」

decimal system 「10進法」や decimal point 「小数点」等に使われる decimal は、decade 「10年」と語源的に関係があります。

もっとも、この場合は直接的な関係ではなく、かなり遠い親戚関係に近いです。専門的な話はここではしないつもりなので、省略します。

また、decimate 「殺す、虐殺する」も decade 「10年」と同語源です。

decimate 「殺す」は、ローマ帝国が戦で捕虜を取った時、その捕虜を10人に1人殺していた風習に由来する単語です。

decimate は語源的には、「10人に1人(もしくは1匹)を供物としてささげる」みたいな意味でした。

今では単に「殺す」まで意味を変化させています。

また、英語ではないのですが、イタリアの作家ボッカチオのThe Decameron (デカメロン)『10日物語』の「デカ」の部分がギリシア語の δέκα (deka) から来ているそうです。

というか、『デカメロン』そのものがギリシア語らしいです。

wikipedia によると、”déka (“ten”) and ἡμέρα, hēméra (“day”)” を組み合わせて作った「10日」という意味の単語らしいです。

さらに、December 「12月」も decade 「10年」や δέκα (deka) 「10」と同語源らしいです。December 「12月」は当初「10番目の月」という意味だったそうなのですが、色々あって「12番目の月」に変わったそうです。

3. ten の語源

現代英語 ten の語源を探ってみます。

5世紀から11世紀くらいまでの時期の英語を古英語 (Old English) と呼びます。

OED によると、古英語の時期、ten は tíen (ティエン)という形だったそうです。確かに、 tíen (ティエン)が ten の語源だと言われても納得できます。

英語という言語は、ゲルマン語族というグループに属しています。ゲルマン語族とは、その名の通りゲルマン祖語からできた言語群のことを指します。

ゲルマン祖語はおそらく文字を持っていなかったとされています。なので、今に至るまでゲルマン祖語の文字記録は見つかっていません。

よって、ゲルマン祖語を話していた人たちが、何世紀ごろ、どのあたりに住んでいたのかは、良く分かっていません。

(僕が調べていないから分からないだけかもしれません。)

ただ、ゲルマン祖語から分岐して、英語、ドイツ語、オランダ語、スウェーデン語、ノルウェー語、アイスランド語等の言語が誕生したということは分かっています。

ゲルマン祖語からできた言語(ゲルマン語族)が使われている国を色で塗った地図を見つけましたので、参考にして下さい。

(アイスランドの色が他と比べて分かりにくいですが、アイスランド語はゲルマン語族の言語です。)

この地図を見ると、ゲルマン祖語どのように分岐していったか、大まかに想像できそうですね。

さて、先ほどからゲルマン祖語という難しい専門用語を使っていますが、ゲルマン祖語を英語で表すと、Germanic です。要するに、ドイツ語の一派という認識で構いません。

ゲルマン語族とは、ドイツ語の親戚の言語たちのことです。さらに言えば、ゲルマン祖語は、そうした言語たちのご先祖様です。

さて、英語もゲルマン語族の言語なので、当然ゲルマン祖語にまでその歴史をさかのぼることができます。

先ほど見たように、現代英語の ten 「10」は、古英語(1000年くらい前の英語)では、tíen でした。

これをさらに遡って、文字記録の無いゲルマン祖語の時代の10くぉ復元することができます。死語を復元することを「再建」と呼びます。

再建した姿を見る前に、ゲルマン語族の「10」を色々見てみましょう。

まず、ゲルマン語族の代表格、ドイツ語の「10」は、zehn です。読み方は「ツェーン」に近いはずです。

英語 ten や、古英語 tíen に音が似ていますね。

オランダ語の「10」は、 ti 「ツィー」です。

スウェーデン語の「10」は、tio 「ツィオ」です。

ノルウェー語の「10」は、 tie 「ツィー」です。

これらのデータから、ゲルマン祖語時代の「10」がどういう発音だったのか、なんとなく想像できるのではないでしょうか。

ゲルマン祖語の「10」は、*te χan「テハン」か、*te χun 「テフン」だったそうです。

χ は「ハ」に近い音だと思ってください。(実際は、Loch の /ch/ の部分に近い音です。喉の奥から発音する「は行」の感じです。)

実は、この*te χan「テハン」か、*te χun 「テフン」がラテン語 decem「10」やギリシア語 δέκα (deka) 「10」と同語源なのです。

4. グリムの法則

印欧祖語からゲルマン祖語が分岐しあと、ゲルマン祖語の方にだけ規則的な音韻変化(発音の変化)が起こったと言われています。

なぜ文字記録が残っていない言語でそんなことが言えるのかというと、ゲルマン祖語から分岐してできた言語(ゲルマン語族)にだけ見られる音韻上の(発音上の)特徴があるからです。

こうした特徴を上手く説明するためには、ゲルマン祖語の段階でこうした発音の変化が起こったという仮説を立てるしかありません。

ゲルマン祖語で起こったこの規則的な発音変化のことを「グリムの法則」と呼びます。発見者はグリムではないのですが、そこらへんは、今は関係がないので深掘りはしません。

ゲルマン祖語は、印欧祖語から分岐した後、特定の子音の音を変化させたとされています。

例えば、印欧祖語の /p/ の音が、ゲルマン祖語では /f/ の音に変わったとされています。/p/ ⇒/f/ です。

印欧祖語で「父」は *pater でした。

ラテン語は子音の音色が印欧祖語にかなり忠実なのだそうです。「父」を意味するラテン語は pater です。

ギリシア語も印欧祖語にかなり忠実で、「父」を意味する単語は、pater でした。

さて、ゲルマン祖語では、/p/ ⇒/f/ になりました。なので、ゲルマン語族である英語の「父」は father です。

(厳密には、ゲルマン祖語で「父」は Vater だったので、/p/⇒/v/ ⇒/f/ という変化が正しい。おそらく、音声学的にもこういう音変化の方が理に適っている。)

また、印欧祖語の /d/ はゲルマン祖語では /t/ になったとされています。これもグリムの法則の一例です。

印欧祖語の「10」は、*dekm (デクム)

ラテン語の「10」は、decm (デクム)

ギリシア語の「10」は、deka (デカ)

ゲルマン祖語の「10」は、*te χan (テハン)

印欧祖語の /d/ が /t/ に変化したため、こうなりました。

語中の子音/χ/ (「ハ」に似た音)に関しては、これまたグリムの法則で説明できます。

グリムの法則によると、/k/ は/h/ に変化したそうです。なので、ゲルマン祖語の*te χan (テハン)「10」の子音に関しては、印欧祖語からの変化をかなり上手く説明できます。

ここまでの話から、ten が究極的にはギリシア語 deka 「10」と同語源であることが分かるはずです。

グリムの法則という音韻変化(発音の変化)により、表面上は分かりにくいものの、深掘りすれば両者の関係性が見えてきます。

因みに、サンスクリット語で「10」は daça (デハ)なので、明らかに印欧祖語と関連がありますね。

作成者: hiroaki

高校3年の時、模試で英語の成績が全国平均を下回っていた。そのせいか、英語の先生に「寺岡君、英語頑張っている感じなのに(笑)」と言われたこともある。 しかし、なんやかんや多読を6000万語くらい積んだら、ほとんどどんな英語文献にも対処できるようになった。(努力ってすごい) ゆえに、英語文献が読めないという人は全員努力不足ということなので、そういう人たちには、とことん冷たい。(努力を怠ると、それが正直に結果に出る) 今は、Fate Grand Order にはまってしまっていて、FGO 関連の記事が多い。