こんにちは、言語学研究家のヒロアキです。普段はyoutubeで生成文法のお勧め文献等を紹介しています。
しかし、最近売り上げが低迷してきました。理由は明白です。僕が紹介する本は全て英語で書かれているからです。
よく考えてみたら、日本人のうち、洋書を難なく読めるのはかなりの少数派です。
さらに、そういう「ハイスペック」な人は、普通YouTube に時間を浪費しません。
そこで、今回は日本語で書かれた英文法書の内、名著、良著を紹介します。
まず、英文法の世界で圧倒的な名著は、安藤貞雄の『現代英文法講義』(開拓社)です。
この本の素晴らしい所を挙げるとキリが無いのですが、あえて挙げるとすれば、その包括性です。
この本は、英文法のおよそ全側面を網羅的に扱っています。
更に、一つ一つの分野の説明がかなり詳細です。これを利用しない手はありません。
この本の議論の裏付けは、参考文献リストを見れば一目瞭然です。
ここからは僕の信念なのですが、勉強での成果は、やった量に大きく左右されます。参考文献リストを見ただけで、この本の著者が真摯に勉学に打ち込んできたことがわかります。
よって、この本の解説一文一文を噛みしめるように読んでみてください。
僕は言語学のバックグラウンドがない状態で京都大学大学院の言語学科を受験する決意をしました。
その時役に立った数多の本の内の一つが本書です。
何分英語教師をやっていたので、英文法に関するそこそこの知識はあったつもりですが、専門レベルではりませんでした。
そこで、授業の開きコマになると、書類置き場(?)みたいな静かな所に逃げ込んで『現代英文法講義』をひたすら読んでいました。
これでかなり力がついたと思います。
『現代英文法講義』の素晴らしい点は、その解説の詳細さだけではありません。
この本は、多くの用例を数々の文学作品から引用しています。
日本人が書いた著作でこれほど引用例文が多い本は珍しいです。
ここまで実証的なデータを提示すると、言語学的な解説の信頼度も上がります。
もっと言えば、解説の部分は5~6年で古くなります。それはどの本にも当てはまる現象でしょう。
例えば、Huddleston and Pullum (2002) による、Cambridge Grammar of the English Language という本があります。
本文が1700ページ以上あり、解説も非常に信頼できる本です。
しかし、出版から20年近くがたった今、理論が古くなってしまっているところが散見されます。
要するに、この本の解説通りに解釈して大学院や学会で発表すると、「もうその説は古いよ」と言われてしまう可能性が高いのです。
ただし、英文法書は、例文が豊富であればあるほど後世まで残る価値の高い作品であると言われています。
その証拠に、70年以上前に書かれた著作である、Otto Jespersen の A Modern English Grammar on Historical Principles. 7vols. は、今でも言語学者が重宝しています。
その理由の一つは、この本が多くの例文を挙げているからでしょう。1500年頃から1900年ごろまで、実に多くの作家から、様々な例を引用しています。
英語という言語がどのように変化してきたのかが分かるくらい例をふんだんに使っています。
おそらく、安藤貞雄も、自身の著作が後世まで残るように、このような「例を引きまくる」という方針を採用したのでしょう。
その判断は正しかったと言えます。
この本は、今後永遠に日本における英文法の世界に残り続けるでしょう。
また、同じ著者(安藤貞雄)が書いた『英語教師の文法研究』も良著です。
続編もあるのですが入手困難で、プレミア価格がついてしまっています。
これらの本も、確かな先行研究に基づいて書かれている点が評価できます。ただし、英語教師には必要とは思えないくらい細かいです。
さらに、巻末の文献リストが非常に有益です。僕はこれを頼りに文献収集をしていた時期があります。