先日、新品の本を購入しました。
Angles of object agreement という本です。
どれだけかかったのかは、あえて明確にしません。
しかし、FGO (Fate Grand Order) のガチャを引いて、バニ上を出すくらいの値段はかかっているはずです。僕の場合、ゲーム開始時に無料で貰える召喚符で出しましたが・・・
本の中身は、生成文法家たちによる論文集となっています。全部で13本くらいの論文が掲載されています。
さて、この本を買った理由は、①僕自身がこのシリーズを集めているから、そして② 題名が Object agreement だったからです。
生成文法の現在の枠組みは、labelling algorithm と workspace の2段構えになっています。
Merge の定義を修正する workspace 理論と、その Merge によって組みあがった syntactic object にどうやって label をつけるのかを考察する labelling algorithm です。
labelling algorithm を実践していると、理論上、どうしても動詞と目的語の間に、人称・数の上での一致があることになります (Chomsky 2015a)。
仕組みはこうです。
POP+ framework では、他動詞文を作る際の最初のステップは、internal argument (IA) と語根 (root; R) を Merge するところから始まります。
(1) {R, IA}
こうして、(1) が完成しました。
さて、R はカテゴリ―を持っておらず、label づけ不能なので、IA を “specifier” の位置に移動して、補強してやる必要があるらしいのです (Chomsky 2015)。
実のところ、なぜこの操作が必要なのか、僕はいまいち理解できていません。しかし、主語が主格をもらう時と対照的な動きをするようにしているというのは、(Chomsky 2015) の論調から分かります。
何はともあれ、(2)が完成します。
(2) {β IA, {α R, IA}}
Chomsky (2015) 曰く、次のステップは、こうしてできた β に、v* を Merge するとのことです。
(3) {γ v*, {β IA, {α R, IA}}
v* は phase head なので (Chomsky 2005, 2007, 2008, 2013a, 2015a, 2021a)、その domain (i.e., complement) である β は C-I interface に送られます (Chomsky 2000 et seq.)。
C-I interface は、意味理解や思考を司る脳内の部位みたいなもので、厳密には syntax の外側にあると考えられています。おそらくウェルニッケ野ではないかとも言われています。
(syntax を司るのは、ブローカー野ではないかとの意見があります。)
さて、意味理解を司る C-I interface に送られた β は、当たり前なのですが、意味理解されなければなりません。
何を当然な、と思われがちですが、これがとても重要なポイントなのです。
Merge の定義は、二つの Syntax object (X, Y) をくっつけて、{X, Y} というセットを作るというものです (Chomsky 2004 et seq.)。
ということは、それ以外何も生み出しません。それが問題なのです。
Merge がしているのは、(X, Y) という二つの要素をくっつけているだけなので、出来上がったセット {X, Y} が動詞句なのか、名詞句なのか、はたまた形容詞句なのか、分からないのです (Chomsky 2013a, 2015a)。
ということは、出来上がった {X, Y} の統語的なカテゴリーが不明なのです。
この問題をどうにかするために考え出されたのが、labelling algorithm です。
labelling algorithm は、minimalist で「自由に使ってよい」とされる第3要因を使った操作です (Chomsky 2013a)。第3要因とは、言語を形作る3つの要因の内の三番目で、自然法則とか、経済性 (computational efficiency) です。
なお、第1要因が遺伝 (= Universal Grammar)で、第2要因が言語経験 (Primary Linguistic Data ) です (Chomsky 2005 et seq)。