僕の分析対象の言語は専ら英語ですが、色々な言語を分析した方が、より重層的で優れた分析ができる傾向にあります。
その証拠に、Who ate my cake? や、What happened yesterday?
等に現れる疑問詞whoやwhatが、spec-Tの位置にあるのか、spec-Cの位置にまで移動してきているのかは、アフリカの言語を研究するまで、世間的にはっきりと分かっていませんでした。
今では、元々spec-Tの位置(主語の位置)にあった疑問詞が、移動の結果spec-C(疑問詞の位置)にまで上がってきているというのが定説になっています。
ということで、英語力が一定に達し、なおかつ英語の生成文法的な分析もある程度のレベルでこなせるようになった今、一種のサブスキルとして、英語以外の言語の学習、研究も始めました。
そこで良質な文法書を探すことになったわけですが、いくつか見つけることができました。
本当は、印欧語族以外の言語からも候補を見つけられれば良かったのですが、それはかないませんでした。
・ロシア語
Bailyn, J. F. (2012) The Syntax of Russian, Cambridge; Cambridge University Press.
ロシア語の文法です。
ロシア語の文法を包括的(要するに全て)に網羅しているわけではなく、生成文法でトピックになることを重点的に扱っています。
関係代名詞や、疑問詞(Wh-frontingかwh-in situか等)、さらに、動詞とvPやT成分等も扱われています。格の決定(case assingment)も、生成文法的に、c-commandで説明されています。
TにC-commandされる要素にはnominative(主格)が付与され、vPにc-commandされる要素にはaccusative(目的格)が付与されるらしいです。なるほど。
半分ほど読み進めましたが、ロシア語に詳しくなくとも、生成文法の背景知識があれば読んでいて普通に内容が理解できます。
逆に言うと、生成文法の背景知識がないと厳しいです。
・フランス語
Hansen, M. M. (2016) The Structure of Modern Standard French– A Student Grammar, Oxford: Oxford University Press.
これは研究書というよりもむしろ教科書ですね。
これまた生成文法で良く扱われる事柄に絞った解説になっています。
完結ながら的を射た記述になっていました。
最近の文法書を読んでいて思うのが、言語学をするなら、生成文法ができなきゃ詰むと言うことです。
・古典ギリシア語
は圧巻です。
ケンブリッジ大学の威信が伝わってきます。
この本では、生成文法はあまり前面に出ていません。
見つかっている古典ギリシア語の資料から、記述主義に従って綿密に分類、整理した本という印象を受けます。
古典ギリシア語の学習者が通読する類のものではなく、この分野に携わる者が本棚に置いておき、いざというときに参照するといった使い方をするのが良いでしょう。