1 身もふたもない話
多くの学問分野は英語の文献が読めるかどうかの戦いになりがちです。今回は、そこでめちゃくちゃ苦しんだ僕がどうやって英語を読めるようにしたのかという話です。
外国語には年齢と才能が大きく影響します。
年齢については、Roberts (2021) が紹介している研究を参照してください。
0~7歳くらいが母語として言語を身につけられる年齢で、8~14歳くらいが「準ネイティブ」になれる年齢とされています。
15歳以上は人生ハードモードになる可能性が高いので覚悟しておいてください。
外国語習得には才能が大きく関係します。これについては Granena (2019) を参照してください。
Granena (2019) の要旨:外国語習得には個人の才能が大きく影響する。ある程度の大きさの母集団(15歳以上の)に外国語を習得させようとすると、どうしても「できる側」と「できない側」に二分されてしまう。この「できる側」と「できない側」を分けるのは個人の才能である。
僕の要約では事実が伝わりにくいのですが、Granena (2019) は一読に値すると思います。
これを読めば、「外国語に才能は関係ない」という文句が真っ赤な嘘であることは、はっきり分かるでしょう。
2 才能の無かった側の戦い方。
僕は高校時代、多科目をやらねばならないという制約がある中、英語を一生懸命頑張ったと自負しています。
京大は私大文系のように「英語+小論文」で受かるところではありません。よって、英語にかけられる時間は限られてきます。
それを考慮に入れると、僕はまあまあ頑張った方だと思います。英語の偏差値は 45 でしたが・・・。
それでも数学や他の諸々の科目のおかげで、京都大学総合人間学部(文系)に現役で合格することができました。
大変だったのはその後です。
大学2年生のころくらいから、英語が読めないと学問ができないということに気が付いてしまったのです。
僕の専攻は西洋史⇒英文学⇒不明(英語学)と自分の中で変化してきました。
西洋史をやっていた時にすでに、英語が読めないと何もできないことには気が付いていました。
そして、読めなかった僕はきちんと英語と戦うために英文学に進み、こてんぱんにされました。
当然ですね。
その後は、英検1級を受けたり、放浪していました。
英文学(英語で書かれた小説)よりも英語そのものに自分の興味があったことに気が付いた当時の自分は、自分なりに本を集めて(卒論そっちのけで)英語学や言語学の勉強を始めました。
英語学とは、英語が研究対象の言語学です。要するに言語学の英語バージョンだと思ってください。
当時の京都大学の英語学の教授は家入葉子という人でした。(今もそうです。)
この人の専門は英語史で、文字通り英語の歴史を研究する学問です。
僕は学部3回生の時にこの人の授業を受けたことがあり、その方面には興味がありました。
なので、授業で使った教科書『ベーシック英語史』の参考文献欄に載っている本で勉強しようと思ったのです。
そこで絶望しました。
思った通り、参考文献リストには英語の文献ばかりが載っていました。
確かに和書もいくらかは載っていましたが、タイトルから判断するに、それらを参照したところであまり前には進めなさそうでした。
なぜなら、『ファンダメンタル英語史』とか、『英語史入門』といったものが並んでいたからです。
ということは、英語史という分野で素人から脱するためには、どうしても英語が読めないといけないのです。
英語が読めないことが弱点だった当時の僕にとって、これは本当に辛かったですね。
英語史以外にも、僕は現代英語の文法にも興味がありました。
当時の僕は、安藤貞雄という人の『現代英文法講義』という本を使って勉強していました。
安藤貞雄の『現代英文法講義』は正真正銘の名著で、英文法を扱った和書を一冊だけ推薦できるとすれば、僕は迷わずこれを推薦します。
この本の欠点を挙げるとすれば、解説がかなり専門的なので、英文法を学術的にやらないという人にとっては無用の長物になりがちです。
(しかし、僕のように学術的にゴリゴリに英文法をやっている人からすれば、説明が物足りない感は否めません。)
この本をやっていて、当時の僕は絶望していました。
なぜなら、この本には立派な参考文献リストがついていて、そこには英語の著作が、これでもかというくらい挙げられていたからです。
『現代英文法講義』の参考文献リストには日本語の著作はほぼ皆無で、あったとしても『ギリシア語文法』とかその辺でした。
『現代英文法講義』を読めば誰でも文法や言語学のことに興味を持つはずです。
少なくとも、『現代英文法講義』を読もうかと考えているレベルの人ならそうなるはずです。
しかし、いくら英文法や言語学について興味を持とうとも、それ以上先に進むことはほぼ不可能なのです。
なぜなら、『現代英文法講義』の参考文献は、ほぼ全てが英語だからです。
英語文献が一切読めなかった当時の僕は本当にもどかしい思いをしました。
興味がある分野があるのに、そこに一歩も踏み込めないなんて、これをもどかしいと呼ばず何と呼べばいいのでしょうか。
その後、紆余曲折ありましたが、ごり押しで英語の著作を読めるようにしました。
そこまでにかかった努力値は、多読6000万語くらいです。
それだけです。
これだけやれば、大抵の人は英語の著作を読めるようになるはずです。
これを読んでいる人の大半は英語の著作を読めない人の集まりだと思うのですが、圧倒的な量をこなせば何とかなるみたいです。
ソースは僕です。
まず、英検1級レベルの英単語まで何とかしちゃってください。
これがないと話になりません。
そして、英文法も重要ですね。
最近、安藤貞雄の『基礎と完成 新英文法』の復刻版が出ました。本来は高校生を対象として書かれたものらしいのですが、僕が読んでみたところ、内容は非常に濃いです。
初学者向きではありませんが、ある程度分かっている人が復習や参照のために使うと良いでしょう。
高校レベルが既に相当怪しい人は。竹岡広信の『ポケット版 ドラゴン・イングリッシュ 必修英文法100』などをやってみてもいいのではないでしょうか。
とにかくどの本をやってもいいのですが、竹岡広信という名前は頭に入れておいて損はないでしょう。
この人は(僕みたいに)英文法について書く時に洋書や英語論文を参照しています。その時点で信頼度は高く、さらに、そうして得た知見を初心者に分かるようにかみ砕いて提示する力もあります。(そこらへんは僕と大きく違う。)
文法と単語をきちんとやったのなら、後は多読や多聴をしてその定着を図るべきでしょう。
世の中にはレベル付きの多読教材というものが多く売られています。初心者はそこから入るべきでしょう。
100人に一人成功するか分からない世界ですが、健闘を祈る。