僕のステータス:アメリカで言語学専攻の博士課程学生
専門は統語論。今回のお題である意味論は・・・・(察し)。
昨日、1年ぶりくらいにゆる言語学外注さんの動画を拝見しました。
そこで、おかしいと思ったのが(いくつもありますが)、以下の動画(↓)
ローランド氏の名言、「ローランドか、ローランド以外か(もしくは、俺か、俺以外か)」が、トートロジーの例として紹介されていました。
しかし、この解説を聞いて、すごくわけが分からなくなりました。
1 序論:危険な試み
むかし、ゆる言語学外注さんを批判したことがあります。
前提:言語学の文献はすべて英語。
ゆる言語学外注さんの行動:英語文献が一切読めないので、大修館書店の力を使って専門家を召喚している。
ということを動画で言ったら、彼らの信者さんから「言語学外注して何が悪いねん。フランスが柔道強いのは、競技人口が多いからや。現に彼らが紹介した(和書の)専門書は、出版社で在庫切れになるほど売れてる。こうした和書を買った人は、言語学の入口になったんじゃないのか」と言われました。
僕は、こうしたコメントに対し、待ってましたとばかりに、「あの、和書買って、言語学の勉強を始めてくれたんすよね。それで、その後、どうですか?言語学の勉強は、はかどってますか?」と問いました。
そして、間髪開けず、「もどかしいやろ」と言いました。偶然捨てずに残していた言語学の和書を取り出して「だって、言語学の和書の参考文献リストは、こうなってるから」と言って、すべて英語文献のみで構成された参考文献リストを見せてあげました。
効果はてきめんで、上の信者とは別の信者さんが「やめろー」というコメントを下さったり、他の人からは、何と、感謝のコメントまでいただけました。
この経験を生かして、僕は全人類の救済を目指して、人助け活動をしていこう・・・・。と思っていた矢先、
京都大学の教授に呼び出されて、無茶苦茶怒られました。
僕は、和書のことを糞呼ばわりしていますが、それでまずガツンと怒られ・・・(その教授は、日本語でしか書かない人でした・・・・)。
そして、「ゆる言語学外注さんには、日本の言語学者集団がバックについているので、彼ら(ゆる言語学外注さん)を批判するのは、日本の言語学者全員を敵に回してるのと同じ。なので、こんなことを続けていると、就職先がなくなるぞ」と言われ、僕は動画を消去。
時がたち、今に至る。
なんかもう、日本に帰る気ないし、どうでもいいや。
和書は例外なく、すべてカスです。
例えば、日本人が書いた本で最高傑作とされる安藤貞雄氏の『現代英文法講義』は、今後50年、このレベルの和書は出ないといわれるほどすごい本です。
しかし、Huddleston and Pllum が書いた Cambridge Grammar of the English Language を全文読んだ後にいると・・・・、
「え、しょぼくね?」としか思えません。
FGOで例えるなら、アルジュナオルタを1年間使った後に、スパルタクスを使った感じです。
アルジュナオルタなら、100万ダメージを余裕で出せますが、スパルタクスは10万ダメージ出せるかどうか。
もう、何もかもが全然違います。
まあ、いろいろ言いたいことはありますが、とにかく、ゆる言語学外注さんを批判するのは非常に危険ということ。そして、危険になった理由は、彼らが言語学の部分を専門家に丸投げしすぎたせいです。
2 本題:典型的なトートロジー
意味論では、A or B がTrue であるためには、
①AがT
②BがT
③AもB もT
の3パターンがあります。要するに、A or B が T であるためには、AかBどちらか一方がTであればいいのです。
例えば、
(1)ゆる言語学外注さんは、{英語文献が読めない}か、{人気がある}。
では、「英語文献が読めない」が真(T)なので、文全体は「人気があるかどうか」に関係なくTです。
ということは、
A or B で、Bのところに、not A をぶち込んであげれば、文全体はいかなる場合でもTです。
(2)岸田首相は {ピカチュウ}か、{ピカチュウではない}。
(2)の場合は、「ピカチュウではない」が真(T)なので、結局、文全体はT。
こういう、A or not A というものを、トートロジーと呼びます。Aがなんであっても、絶対に真になるので、クイズ大会などで使ってみることをお勧めします。
また、A or not A と実質的に同じことを言っている例として、
(3)キリマンジャロの標高は{3000m未満}か、{3000m以上}だ。
3000m以上をAだとすれば、not A は、「3000m未満」と言えます。ということは、(3)は、「キリマンジャロは、not AかAだ」と言っているのと同じ。
(4)第100回大相撲の優勝者は、白鳳か、白鳳以外の誰かだ。
クイズで、大相撲の優勝者を訪ねられたら、(4)のように言えば絶対に正解します。たとえ白鳳が引退した後であったり、けがで球場していても、「白鳳以外の誰か」の部分が真なので、文全体は常に真です。
また、厳密な意味ではトートロジーではありませんが、トートロジーにかなり近い例がこれ(↓)
10代が犯人だった場合は、この発言は偽(F)です。しかしながら、ほとんどの場合、どれかが当たるので、高確率で真(T)です。
3 「ローランドか、ローランド以外か(俺か、俺以外か)」はトートロジー?
少なくとも、典型的なトートロジーからは大きく外れます。
最悪の場合、トートロジーでもなんでもありません。
類似の発言集
1番バッター:東大理化3類で3度目の留年中のベテランち氏の名言
「日本に学歴は2つだけ。理3か、理3以外か。」
2番バッター:全盛期の平氏一門が言いそうなこと
「この世に人間は2種類だけ。平氏一門か、それ以外か。」
3番バッター:人助け専門家の廃課金発言
「FGOのサーヴァントは2種類しかおらん。宝具5か、宝具5以外か。」
(参考資料↓)
上から、7万、7万、7万、5万。ちなみに、ここまで強くなると、ほとんどどんなクエストでも周回可能です。今の僕の英語度書きレベルと同じ。哲学書でも読解可能。
さて、上の発言に共通する点は、
「○○には2種類だけ。A か、A 以外か」
という文構造です。必ず2文に分かれていて、○○には、と最初の文で言うことで、全体の集合を名言しています。
そして、決まって、「2種類だけ」という文言が続き、「Aか、A以外か」という特徴的な(全体集合の)切り分け方が発表されます。
では、この○○とAの部分にいろいろ代入してみましょう。
例1:「スマホには2種類だけ。iphone か iphone 以外か。」
これは、うまくいきました。iphone 信者の発言になりました。
では、次に行ってみましょう。
例2:「昆虫には2種類だけ。ゴキブリか、ゴキブリ以外か。」
あれ? なんだか、ものすごい違和感が・・・。
例3:「腕時計には2種類だけ。ロレックスか、ロレックス以外か。」
これは上手くいきました。ロレックス信者の発言になりました。
例4:「FGOのサーヴァントには2種類だけ。スパルタクスか、スパルタクス以外か。」
これもおかしい。
例5:「FGOのサーヴァントは2種類だけ。ジュナオか、ジュナオ以外か。」
これはOKな例です。スパルタクスは低レアで、火力が低いキャラクター。一方、ジュナオ(アルジュナオルタ)は、最高ランクのレアリティであり、FGOというゲーム史上最強のキャラクター(サーヴァント)という呼び声も高いです。
このキャラクターを一体育てているだけで、ほぼどんなクエストもこなせると豪語する人もちらほらいます。(↓)
スパルタクスは、性能もレアレテもィ並レベルのキャラクターですが、彼を使った場合、1万くらいのダメージしか出せません。
え、次はこいつを宝具5(完成体)にしろって?
いや、男は、生理的に無理。
とにもかくにも、以上からわかったことは、
「○○には2種類だけ。A か、A 以外か。」
という構文は、一般的なトートロジーと違って、Aに入れることができる要素に厳しい制約がある。ということです。
ということは、この構文を使って話者が伝えたいのは、(↓)のような、クイズ大会や「専門家の見解」で「絶対に当ててやる」ことを意図しているのではないといえます。
そもそも、
「○○には2種類だけ。A か、A 以外か。」
という構文に出てくる「か」は、本当に英語の or に相当するものなのか、どうも引っかかります。
①第百回大相撲の優勝者は、白鳳か、白鳳以外の誰かだ。
②第百回大相撲の優勝者は、白鳳、もしくは白鳳以外の誰かだ。
③第百回大相撲の優勝者は、白鳳、または白鳳以外の誰かだ。
「か」「もしくは」「または」すべて英語の or の訳語として使える。
つまり、①~③はすべて、
The winner of the 100th ozumou championship is Hakuho or someone other than him.
を日本語訳にしただけ。結局、典型的なトートロジーというのは英語で [A or not A] の関係性。
一方、問題の構文(意図すること)を英語にしてみると:
FGO servants can be categorized into two categories, with one being Arjuna-alter and the other being all the other servants. (And incidentally, those who belong to the latter category are unimportant.)
「FGOのサーヴァントは2つのカテゴリーに分かれていて、アルジュナオルタとそれ以外だ」
英語で、or (=か、または、もしくは)を使っていないことに注目。
結局、問題の構文で言いたいことは、これ。典型的なトートロジーとは大きく異なる。
むしろ、話し手が、「私は、こういうカテゴリーわけをしてます」と明言していることに他ならないから、「AかA以外か」の部分で、すべてを包括していないと、カテゴリーに分けられないものが出てくるので、不適格。
結局、「Aとそれ以外のカテゴリーだ」が意味することは、「Aがすごくいいので、他とは区別されるべき」とか、「A以外のカテゴリーはカスだ」です。
なので、「ゴキブリがゴキブリ以外か」は変に聞こえる。
一方、クイズで、
文脈:(中身が見えない箱の中に手を入れて、触感だけで何を触っているか充てるゲーム)
「私が触っているのは、ゴキブリか、ゴキブリ以外の何か。」
これは典型的なトートロジーで、What I am touching is [G or not G]になっている。クイズ番組とかで絶対に当てに来ているパターン。
しかし、こうすると、典型的なトートロジーには聞こえなくなります。
「私が触っているのは、ゴキブリか、ゴキブリ以外か。」
I wonder what I am touching now. I do not know whether it’s G or not G.
「ゴキブリか、ゴキブリ以外か」の「か」は、少なくとも一方が疑問のニュアンスを含んでいるように感じる。
「ローランドか、ローランド以外か。」