1、生成文法って何ぞや
こんにちは、言語学研究家のヒロアキです。
言語学研究家と自称するくらいなので、日々言語について書かれた著作を読んでいます。
一口に「言語に関する」といっても、分野はたくさんあります。
僕が読んでいるのは生成文法という学問分野に関する本です。
生成文法という学問分野は、Noam Chomskyという人が始めた分野で、数多の言語学者がその発展に貢献してきました。
この分野の大きな目標として、子供の母語獲得をどうやって説明するかが挙げられます。
あくまでこれは生成文法が説明しようとしていることの一つにすぎませんが、やはり大きな問題です。
結論から言うと、人間の脳内には言語を習得する機能が備わっていて、それを臨界期(大体10歳くらいまでと言われてきた)までに活性化することで言語を習得できるというのがChomskyの理論です。
ありとあらゆる人間の言語が従うルールみたいなものが実際に観察されているので(これについてはまた違う記事で触れます)、人間の言語にはひな形みたいなものがあるという理論です。
ざっくり言うと、生成文法かは、人間の脳内にある、この言語のひな形を普遍文法(Universal Grammar)と呼んでいます。
そのひな形には無数の「変数設定(parameter setting)」があり、それを設定していくのが母語習得の過程とされています。
これが生成文法の大まかな枠組みです。かなりかみ砕いたので、厳密性は一切ありません。
2、生成文法家の日常
普通の学者(学生)と変わりません。
自分の専門領域に関する著作を読んで読んで読みまくります。そして、先行研究をまとめつつ、それらに足りないところや、間違っていると思われる個所を見つけて、自分なりの仮説を書いて書いて書きまくります。
さらに、自分の理論に説得力(?)みたいなものを持たせるため、いろいろな言語現象(要するに、例文)を収集するのがベストです。しかし、用例収集に関しては僕はまだできていません。
その証拠に、僕の書いた論文を見てみてください。
”Why are antecedents raised? – A Generative Approach to Relative Clauses”
いっちょ前に自説を展開していますが、それをサポートする具体的なデータ(要するに例文)がないでしょう?
ここら辺が自分の課題ですね。
それはさておき、理論面では、本を読みまくるというのが基礎基本です。ただし、この分野では、日本語で書かれた著作はあまりありません。ほとんどが英語で書かれています。
要するに、英語が読めないと死にます。
ということで、毎日英語を読んで読んで読みまくって、適当なアイデアが浮かんで来たら、英語を書いて書いて書きまくる、というのが僕の日常です。
ただし、英語文献を読むといっても、少し特殊だと僕は思っています。
生成文法を始めたのはNoam Chomskyです。彼は多くの著作を執筆してきました。
もちろん、言語哲学や政治学など、僕が読む必要のないものも多いです。
しかし、生成文法をしている限り、Chomskyの著作を読んでなんぼ、というところがあります。
そして、彼の著作は大概の場合、かなり難しいのです。
ここが厳しい。
僕は普通なら、一日当たり80-100ページくらいの英文は読めます。
しかし、Chomckyが書いたものは、どうあがいても一日で30ページくらいしか読めません。
さらに、あまりの抽象度、難易度の高さから、脳が疲弊します。
しかし、やらねばならぬことなので、余裕がある日にコツコツ読み貯めました。
当然一読して内容が理解できないというのは普通で、解説本(もちろんこれらも英語)を読んでから読んだこともあります。
また、一読してから半年くらい期間を開けて再読したケースもあります。そうすると、一度目には頭に入ってこなかったことが理解できたるということが多かったです。
そうしているうちに、Chomskyの著作はあと2冊になりました。以下の通りです。(言語哲学・政治学の著作は考慮に入れない)
Chomsky, N. (2004) “Beyond Explanatory Adaquacy.” In Belleti, A. ed. (2004) Structure and Beyond—The Cartography of Syntactic Structure. Vol.3. Oxford: Oxford University Press.
Chomsky, N. (2008) “On Phases.” In Freiden, R. Otero, C. P. and Zubizarreta, M. L. eds. (2008) Foundational Issues in Linguistic Theory—Essays in Honor of Jean-Roger Vergnaud. Cambridge, MA: MIT Press. 133-166.
いずれもphase理論を扱ったものです。
ちりも積もれば山となる、というのはよく言ったもので、0から始めて、やっとここまで来ました。
3、余談
実は、この記事を書き終わるまでに上記の論文を2編とも読み終わりました。難解でしたが、得るものは大きかったように思います。
上に挙げた本はいずれも論文集です。いろんな学者のい論文を一冊の本として出版しています。
今はこれらの本に載っているほかの学者の論文を読んでいるのですが、かなりいいものが多いですね。
特にFreiden, R. Otero, C. P. and Zubizarreta, M. L. eds. (2008) Foundational Issues in Linguistic Theory—Essays in Honor of Jean-Roger Vergnaud. Cambridge, MA: MIT Press. に乗っている論文は面白いものが多いように思いました。
Jean-Roger Vergnaudと言うすごい学者のために書かれた本書は(退官記念論文集か何かかな?)、名詞の格(case)について扱ったものが多いです。
このJean-Roger Vergnaudという学者が、生成文法における格の理論の重要な発見をしたので、格に関する論文がこんなにそろったというわけです。
今思い出したのですが、京大の言語学科の博士課程の学生で、格について研究している人がいたので、今度この本を勧めてみようと思います。